相続法に新設された「配偶者の居住の権利」(民法1028条~1041条)を考える(その1)
2023.4.3
今回から「配偶者居住権」について、4回に渡り、その利用と相続対策についてお話しします。
- 1 「配偶者居住権」には、「配偶者長期居住権」(民法1028条以下)と「配偶者短期居住権」(民法1037条以下)があります。
- (1) 「配偶者長期居住権」(単に「配偶者居住権」と言う)は、国民の急速な高齢化に伴い、残された配偶者が安定した生活を維持できるようにするため、配偶者の遺産の取り分の選択肢として新設された制度であり配偶者が自宅を相続しなくても生涯住み続けることができる権利です。
- (2) また「配偶者短期居住権」は、それが新設される前は判例により「使用貸借の合意(無償使用の合意)を推定する」とされ、少なくとも遺産分割が終わるまでの居住を認めるとされておりました。
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2 「配偶者居住権」は、住居の権利を「所有権」と「配偶者居住権」に分割し、配偶者に「居住権」を取得させることで、住居が子供や他人の所有になっても終身の間又は一定期間居住できるとしています。
- (1) 夫又は妻が亡くなった場合相続が開始します。
- (ア) 例えば、妻子の相続で子が自宅の居住建物とその敷地の所有権を取得し、これに対し妻が建物の「配偶者居住権」と土地の「敷地利用権」を取得することにします。
- (イ) 以前は、自宅を所有する夫が死亡すると妻子間でその相続を巡って紛糾し、妻が自宅を相続できないと自宅に住み続けることが困難となることも起こりました。
- (2) 「配偶者居住権」は、相続開始時に住居に無償で居住していた場合に遺産分割協議・遺贈(遺言)・死因贈与により取得することができます。
- (ア) 【民1028Ⅰ】「被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利(配偶者居住権)を取得する。」
- 「1 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。」
- 「2 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。」
- a) 「但し、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。」(Ⅰ但書)
- b) 「配偶者居住権」には、登記を必要とする(民1031)。
- (1) 夫又は妻が亡くなった場合相続が開始します。
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(イ) 「居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは配偶者居住権は消滅しない。」(Ⅱ)。
- (ウ) 「配偶者居住権の遺贈について、民法903Ⅳ(特別受益者の相続分)を準用する。」(Ⅲ)され,持戻しの適用はありません。
- 【民法903Ⅳ】「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人はその遺贈又は贈与について第1項(持戻し)の適用しない旨の意思表示をしたものと推定する」
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- (3) 「配偶者短期居住権」とは、「配偶者は被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じて各号に定める日までの間、その居住していた建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住部分のみ「配偶者短期居住権」)を有する」(民1037)とされています。
- (ア) 被相続人の相続開始時に配偶者が住んでいた住居から追い出される事態にならないように「短期居住権」が設けられました。
- ①居住建物につき配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合は、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時から6か月経過する日のいずれか遅い日
- ②前号に掲げる場合以外の場合は、第3項(配偶者短期居住権の消滅)の申入れの日から6か月を経過する日
- (イ) この制度の創設は、配偶者が急に住まいを失うことを回避し、遺産分割が終わるまで従前の住居に無償で住むことができるとし、配偶者のそれまでの生活状態を一時的に保護しますが次の制約があります。」
- a) 配偶者は、従前の用法に従い善良な管理者の注意をもって使用する義務がある(民1038Ⅰ)。
- b) 居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物を使用させることができない(Ⅱ)。
- c) 前2項に違反したときは、居住建物取得者は配偶者に対する意思表示によって、配偶者短期居住権を消滅させることができる(Ⅲ)。
- (3) 「配偶者短期居住権」とは、「配偶者は被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じて各号に定める日までの間、その居住していた建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住部分のみ「配偶者短期居住権」)を有する」(民1037)とされています。
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(ウ) 権利の価額は、遺産分割でも相続税の算定でもゼロとして扱います。
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筆者紹介
特別顧問
弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人
- 経 歴
- 宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。