「デジタル遺言」制度の創設 ~遺言もインターネット上で作成・保管ができるように~
2023.5.25
こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。
今年5月時点のマイナンバーカードの普及率は申請ベースで人口の約76%に達したとされ、マイナンバーカードの普及とともに公共サービスのデジタル化が進んでいます。相続にかかわる分野でも今後デジタル化に向け制度の整備が進むようです。内容をご紹介します。
■政府が掲げる「死亡・相続ワンストップサービス」とは?
相続手続きは市役所へ行けば終わると思っていたのに、年金事務所、法務局、税務署とたくさんの窓口をまわり、各先とのやりとりや書類の提出等、手続きの煩雑さに驚かれた方も多いでしょう。この現状をふまえて、政府は「死亡・相続ワンストップサービス」の政策推進を掲げています。具体的には、遺族が行う手続きを削減、故人の生前情報をデジタル化、相続人であることのオンライン認証といった取り組みを進め、行政手続きだけでなく民間手続きも含めた死亡・相続のワンストップサービス等を目指すとしています。
相続の窓口がひとつになれば、故人を偲ぶ時間もないまま煩雑な手続きに追われることもなくなります。制度開始が待たれるところですが、はじまるのはいつ頃になるでしょうか。この制度ではマイナンバーにより死亡の情報をつなげることで、各行政で故人の相続関係・財産状況等の情報を共有し、相続手続きの集約がなされると思われます。先行する「マイナ保険証」で混乱が相次ぐ現状をふまえると、安全性と実効性を担保したうえで「死亡・相続ワンストップサービス」の仕組みが出来上がるのはまだまだ先のことかもしれません。
■「デジタル遺言」で相続をもっと円滑に
5月6日の日本経済新聞の一面で「デジタル遺言、制度創設へ」と報じられましたが、この制度は「死亡・相続ワンストップサービス」より先にはじまる見込みです。民法の改正も必要ですので制度開始は少し先になりそうですが、年内に法務省が有識者会議を立ち上げ、2024年3月を目標に新制度の方向性を提言するとされています。
「デジタル遺言」の新制度により、遺言はどのように変わるでしょうか。現行の制度では遺言を作成する人が紙に直筆で内容を書く自筆証書遺言や、公証人に作成を委嘱する公正証書遺言等があります。これまでに自筆証書遺言は使いやすく変わってきており、2019年1月からは財産目録をパソコンで作成して良いとして、全文自筆の要件が緩和されています。2020年7月からは、法務局での自筆証書遺言保管制度も開始されています。このように使い勝手が良くなってきたものの、現行制度は紙がベースのままです。新制度では、自筆証書遺言をパソコン等で作成しクラウド等に保管する案があるようです。フォーマットに沿って遺言の内容を入力することになれば、知識を得ないと何から書き始めたら良いか分からないということもなくなるため、遺言を作り始めるハードルがぐっと下がります。本人確認はマイナンバーの顔写真との照合、電子署名や電子印鑑等により代替、改ざん防止のためにブロックチェーン技術を使うこと等が検討されています。
遺言は相続の準備の柱といえますので、円滑で円満な相続に向けて制度が便利に変わっていくことを期待したいですね。