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「配偶者の居住の権利」を考える(その4)

2023.11.2

今回は前回までに説明した「配偶者居住権」の活用について見てみます。その活用に当たっては、難しいので詳しくは専門家にお尋ね下さい。

 

  1. 6 「配偶者居住権」を相続税対策としての活用について考えましょう。

    1. (1) 例えば、相続税評価額が1億円の不動産について配偶者と子が相続する場合、「夫→妻→子」の順番で相続すると、妻の相続時には相続税の配偶者の税額軽減によって相続税がかからない場合があります。
      • (ア) 「配偶者の税額の軽減」は、① 配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が「配偶者の法定相続分相当額」と、② 「1億6千万円」の①と②とを比較し、多い金額までは相続税が軽減されるので、多くの場合、配偶者に相続税はかかりません。
      • (イ) しかし「妻→子」の相続では、相続税評価額1億円全部が課税価格に含まれ、また「夫→子」とする場合でも同様に1億円全額が課税価格に含まれ、相続税がかかります。
    2. (2) そこで「配偶者居住権」を活用し、配偶者が「配偶者居住権」を、子が「配偶者居住権付所有権」を相続し、「配偶者居住権」の価額が6,000万円で「配偶者居住権付所有権」の価額が4,000万円だとすれば、妻の相続分に課税価格6,000万円が含まれても配偶者控除内であれば相続税はかからず、子の相続分に課税価格4,000万円が含まれて課税されるだけとなります。
      • (ア) その後、妻が死亡すると「配偶者居住権」は消滅し、子の「所有権」は配偶者居住権の制約から外れ、子の財産価額は6,000万円分増加します。
      • (イ) 妻から子への相続の場合に、この増加分を相続税の課税対象としていないので、相続税対策として有効な手段となり得えます。
    1. (3) すなわち、一次相続で「配偶者居住権」を適用すれば、二次相続で節税することが可能となるということです。
      • (ア) 一次相続で、配偶者は「配偶者居住権」を税額の軽減措置により、相続税の課税無くして取得できる。そして配偶者が死亡すると「配偶者居住権」は消滅するので、子が取得した所有権は制約の無い完全な所有権となる。
      • (イ) 二次相続で、配偶者の死亡によって「配偶者居住権」は消滅するので、「配偶者居住権」は相続人の子が取得する相続財産には含まれず、結局、子は課税無しで土地や建物の完全な所有権を獲得できることになる。
      • (ウ) すなわち「配偶者居住権」消滅は、それを構成する「配偶者居住権」と「敷地利用権」が消滅するので、二次相続では相続税の負担がない。
      • (エ) 但し、次のような理由で配偶者居住権が消滅した場合は、配偶者から所有者へ居住権部分の贈与があったとみなされ、贈与税が課税されます。
        •  a)存続期間の中途で配偶者と所有者の合意解除で消滅した場合
        •  b)配偶者が配偶者居住権を放棄した場合
        •  c)所有者による消滅の請求があった場合(民法1032Ⅳ、使用収益の違反、無断増改築、第三者の無断使用・収益)
        • ※【相続税法基本通達9-13の2】(配偶者居住権の合意等による消滅)
        •   配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者と当該配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意、若しくは当該配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合、又は民法第1032条第4項(建物所有者による消滅の意思表示)の規定により消滅した場合において、当該建物の所有者又は当該建物の敷地の用に供される土地(土地の上に存する権利を含む)の所有者(以下9-13の2において「建物等所有者」という)が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として当該建物等所有者が、その消滅直前に当該配偶者が有していた当該配偶者居住権の価額に相当する利益、又は当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、当該配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする(令元課資2-10追加)
          •  (注) 民法第1036条(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)において、準用する同法第597条第1項及び第3項(期間満了及び借主の死亡による使用貸借の終了)並びに第616条の2((賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了))の規定により配偶者居住権が消滅した場合には、上記の取り扱いはないことに留意する
        •  d)次のような場合は、贈与にはあたらず贈与税は課税されません
          •  1) 相続時に設定していた存続期間が満了した場合(① 配偶者が死亡した場合、② 配偶者が配偶者居住権存続期間(有期で設定の場合)が満了時に生存していた場合)
          •  2) 建物の滅失によって配偶者居住権が消滅した場合
    1. (4)
    2. (4)<居住建物の所有者から所有権部分の贈与があった場合>は、所有権の受贈者に贈与税課税がされる(課税価額は配偶者居住権付所有権の評価額)。
    3. (5)
    4. (5)<配偶者より先に居住建物の所有者が死亡した場合>は、所有者の相続人に相続税が課税される。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

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