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「最高裁判決」の「タワマン節税」対策における教訓について(その1)

2024.9.2

 

  1. 1 「タワマンによる節税」とは、相続資産のうち、金融資産(現預金)を「タワーマンション」(不動産)に組み替えて相続税評価を引き下げ、税額を節約する方法です。

    1. (1) 平成28年12月号の「レインボーニュース」で、超高層の「タワマン」の相続税評価額が時価(実際の買い入れ価格)よりも低く算出されるので、実際の資産価値を維持しながら節税を可能とする見解について、「その手法は「ウルトラC」であって失敗し墜落する危険もあるので命懸けともいえます」とお話ししました。
    2. (2) そして「タワマン節税」に関する最高裁令和4年4月19日判決(相続税更正処分等取消請求事件)が大きく報道されたのでご存じの方も多いでしょう。

      • (ア) 本件は、相続人らの「タワマン節税」による相続税申告に対し、国税当局がマンションの「路線価」などによる財産評価額が実勢価格と大幅に乖離する評価減となり、著しく不適当だとして更正処分等をし、これに対し、相続人らが不服として訴訟を提起した事案であり、富裕層や専門家が注目していた裁判でした。
      • (イ) 本件で最高裁が我々に示したのは、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとして国税局の更正処分を認容し、それは租税法の適用において一般原則の「平等の原則」を実現させるものでした。
      • (ウ) 本件の過度な「タワマン節税」対策に対しては、国税局が「個別通達」を発しているので(令和5年9月28日付)、これについては後日見てみましょう。
  2. 2 次に最高裁判決の事案を見てみましょう。

    1. (1) 被相続人は平成24年6月死亡し(満94歳)、相続財産の中にタワーマンション2室(「①」と「②」)を所有し、相続人は配偶者、実子3名、養子1名で、相続税の基礎控除額は1億円(当時5000万円+1000万円×5名)であった。

      • (ア) タワマン(20階以上の超高層)は、相続開始2~3年前に賃貸用として、いずれも築浅で代金約14億円を銀行借入金約10億円等で購入した。

        • a) 被相続人の90歳時に、「①」(東京都杉並区所在)を価格8億3,700万円(銀行借入金6億3,000万円)で、91歳時に、「②」(川崎市所在)を価格5億5,000万円(同借入 3億7,800万円、親族から借入 4,700万円)で購入した。
        • b) 相続人は平成25年3月7日で「②」を5億1,500万円で売却した。
      • (イ) そして相続税評価額を「①」を2億円、「②」を1億3,300万円とし、借入金残高9億6,300万円を債務控除して、約6億3,000万円の「債務超過」となり、その他の相続財産(預貯金、不動産等)と相殺して2,826万1,000円となり、基礎控除1億円を下回るので、平成25年3月札幌南税務署に相続税0円で申告した。
    2. (2) これに対し、同税務署は「財産評価基本通達」(昭和39年4月25日、国税庁長官通達(以下「評価通達」))第6項の「評価通達の定める方法によらずに他の合理的な方法による評価」に従って国税庁長官の指示を受け、「①」、「②」の価額を、平成28年4月不動産鑑定士による鑑定評価額「①」7億5,400万円、「②」5億1,900万円に基づき相続税を 2億4,049万8,600円とする更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分をし、これに対し不服な相続人らが、同年7月に国税不服審判所へ審査請求したが棄却され、東京地裁に本件処分取消訴訟を提起し敗訴し控訴した。

    3. (3) 原審(東京高裁)は、「①」、「②」の価額を評価通達により評価すると実質的な租税負担の公平を著しく害し不当な結果を招来するから、他の合理的な方法での評価が許されるとし、各鑑定評価額を「①」「②」の客観的交換価値としての時価だとし、これを基礎とした各更正処分も各賦課決定処分も適法とし、申告者を敗訴させたので、原審に相続税法22条等の法令解釈適用を誤った違法があると上告した。

  3. 3 これに対し、最高裁判決が上告棄却した判断の内容はやや難解ですが、税法の真髄で大変参考となりますので下記の通り引用しました。

    1. (1) 相続税の評価額について、「相続税法22条」は、「・・・、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」と規定する。

    2. (2) 同法を受け、「評価通達」の1項(2)は、「時価」とは相続開始日時点の時価で、<土地の相続税評価額 = 路線価 × 土地の面積>(路線価方式)(同通達13項等)によるとし、「6項」は「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定する。

      • (ア) しかし「評価通達」は、上級行政機関が下級機関の職務権限行使を指揮するためのものに過ぎず国民に対し直接の法的効力を有する根拠はない、とする。
      • (イ) 相続税の課税価格となる財産の価額は、時価を上回らない限り同条に違反するものではなく、「評価通達」での評価額を上回るか否かによって左右されない。
      • (ウ) 各鑑定評価額は、「①」「②」の時価と認められ、それが通達評価額を上回るから相続税法22条に違反するとは言えない
    3. (3) 従って相続税の課税価格に算入される財産の価額は、「時価」(当該財産の取得時の客観的な交換価値)を上回らない限り、同条に違反しない、とする。
    4. (4) 他方、租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される、とする。

      • (ア) 課税庁が、特定者の相続財産の価額のみを評価通達での評価価額を上回る価額とするのは、「時価」を上回らなくても、合理的な理由がない限り、平等原則に違反して違法であるが、「評価通達」による画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合には、合理的な理由がある
      • (イ) 評価通達による評価額を上回る価額によることが、上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である、とした。
    5. (5) 本件相続財産の課税価格は6億円超であったが、「①」、「②」の「評価通達」で課税価格を算出し、債務控除と基礎控除等により相続税を0円に激減させており、本件は相続関係者らが近い将来の相続を想定し、借入金でタワマンを購入して相続税の減免を企画したのが明らかで、放置できなかった事案であったと言えます。

      • (ア) 「①」、「②」の価額を「評価通達」で評価すると、「タワマン節税」を取らない他の納税者との間に看過し難い不均衡が生じ、実質的な租税負担の公平に反する。
      • (イ) 従って、「①」「②」の価額を評価通達により評価した価額を上回る価額によることが、上記の平等原則に違反するということはできないとされた。
  4. 4 次回は、本最高裁判決の意味と影響及び国税当局のその対応を見てみましょう。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

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