「タワマン節税」の「最高裁判決」の意味と国税庁の個別通達「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」(令和5年9月28日)の今後の影響ついて見てみましょう(その2)
2024.10.1
- 1 「最高裁判決(令和4年4月19日)」は、課税価格6億円超の相続案件において、「タワマン節税」により「財産評価基本通達」を紋切り型に適用し相続税を「0円」と豪腕を振るった申告者に対し、実質的に租税負担の公平に反する事情があるとした国税当局の更生処分に合理的理由を認め「課税平等原則」に反しないと痛撃を食らわせ、その結果「タワマン節税策」は「失敗し墜落し」真に命懸けとなってしまいました。
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- (1) タワマン2戸を約14億円で購入し、その相続税評価額3億3,300万円とし、借入金残9億6,300万円を控除して債務超過約6億3,000万円とし、その他の相続財産と相殺し2,826万1,000円となり、基礎控除1億円を下回るので相続税0円とした申告は、評価額と市場価格との乖離を利用した超絶技巧の「ウルトラC」でした。
- (2) しかし、最高裁は、その「タワマン節税」策がマンション購入時期、借入金の節税の意図(銀行の稟議書)、申告直前の1室売却等から近い将来発生する相続で税額減免を期待して敢行したと認定し、それに経済合理性が認められないとしました。
- (3) 税務専門家には「基本通達通りに節税対策をしただけなのに何故否認されるのか」との戸惑いがあったとも聞きますが、かかる節税策には経済的合理性が認められず、「租税負担の公平」に反すると指摘した最高裁判決を玩味すべきでしょう。
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2 この判決を受け、国税庁はマンションの「相続税評価額」に「時価(市場売買価格)」との大きな乖離が生じた場合に、相続税評価を個別事案毎に判断している現状を回避し、納税者の予見可能性を確保するため、個別通達「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」(令和5年9月28日)により、新しくその評価方法を定めて「令和6年1月1日以後に相続、遺贈、贈与により取得した「居住用の区分所有財産」(分譲マンション)の価額」の評価に適用するとしました(タックスアンサーNo.4667「居住用の区分所有財産の評価」(インターネットで参照)。
- (1) <マンションの時価評価>は「宅地部分」を「財産評価基本通達」(昭和39年4月25日)で全体評価した後、各戸の所有割合、敷地権の割合で按分し、「建物部分」は、全体の固定資産税評価額を各戸に延べ床面積の比率で按分して算出します。
- (ア) タワマンの上層階は、高額の資産価値を有するその時価が「路線価方式」、「固定資産税評価額」による「課税価格」まで大きく引き下げられ、更に借入金残高の控除(控除項目)で相続税額を大幅に圧縮することができていました。
- (イ) しかし、この「タワマン節税」による「課税価格」の引下げを抑え、「相続税評価」を市場価値の60%に引き上げるために「課税価格」に「区分所有補正率」を乗じて算出することとしました。「区分所有補正率」は「評価乖離率」と「評価水準」から一定の計算式で算出されますが、その詳細は次回に説明します。
- a)これまでマンションの相続税評価額が、市場価格との平均評価乖離率が2.34倍の42.7%で、市場価格1億円のものが4,270万円と評価されたのを令和6年以後は平均評価乖離率を1.67倍の60%まで引上げることにしました。
- b)「相続税評価額」を実勢価格の60%の水準にすると、その乖離率は「評価水準60%」の逆数の1.67倍であり、例えば乖離率がそれ以上の2倍であるとすれば、評価水準がその逆数の50%で60%を下回るので、「相続税評価額」がその60%まで引き上げられることになります。
- (2) 見直しの対象となる「居住用の区分所有財産」とは、「居住の用に供する専有部分」である「マンション一室」であり、その相続税評価額は上記の通り、その「区分所有権(家屋部分)」と「敷地利用権(土地部分)」の各評価に「区分所有補正率」を乗じた価額に引き上げられ、乖離率によっては引き下げられる場合もあります。
- (ア) 「居住の用に供する専有部分」とは、「構造上主として居住の用途に供する」、登記簿上「居宅」と表示されるマンションで、相続時点で事務所として使用する場合でも、登記が「居宅」であれば「個別通達」の適用の対象となりますが、下記のものは適用外となります。
- a)区分所有登記のない一棟所有の賃貸マンション、事業用の区分所有オフィス(事業用のテナント物件)などで、流通性・市場性が低く適切な評価乖離率の算定が困難なもの。
- b)居住用の区分所有マンションでも、地階を除く階数が2以下の低層の集合住宅、専有部分一室の数が3以下で、その全てを当該区分所有者又はその親族の居住用に供するもの(いわゆる二世帯住宅等)など。
- (イ) 借地権付又は定期借地権付の分譲マンションの敷地の用に供される「貸宅地(底地)」の評価も、通常の宅地の底地として評価し、本通達は適用されません。
- (1) <マンションの時価評価>は「宅地部分」を「財産評価基本通達」(昭和39年4月25日)で全体評価した後、各戸の所有割合、敷地権の割合で按分し、「建物部分」は、全体の固定資産税評価額を各戸に延べ床面積の比率で按分して算出します。
- 3 マンションの評価方法の改正により「理論上の市場価格の60%」の評価となり、「タワマン節税」の手法による大幅な節税効果を望めなくなったが、それでも評価額40%分の引き下げと債務控除(金利負担による問題は残る)の効果が残るので、ケースによっては 「タワマン節税」の活用の余地がないとは言い切れず、今後「個別通達」により「タワマン節税」が、どのように封じられるのかを見極める必要があると思われます。
- (1) 上記改正は、タワマンだけでなく区分所有登記をしたマンション一室の全てが見直しの対象となったので、通常のマンション所有者も改めて相続税を試算してみる必要がありそうです。
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- (ア) 新たな購入や売却にあたっては、「個別通達」に基づく評価額によって相続税を計算するなど慎重な検討が必要ですので、その時は専門家に相談して下さい。
- (イ) マンション購入後相続までに年月が経過すると節税効果が薄れるし、相続開始直後に売却すると時価との乖離が露わになるので注意を要し、また5年以内の短期譲渡では譲渡益に高い所得税が課されることも念頭に置く必要があります。
- (ウ) なお、マンションが貸家と貸家建付地である場合のそれらの評価、また小規模宅地等の特例(被相続人と同居)の適用は、上記で計算した価額を基に行います。
- (2) 今後は、相続の場合に生命保険の保険金受取人が死亡保険金のうち「500万円×法定相続人数」まで非課税となる措置や、贈与税の「暦年贈与」「相続時精算課税」による基礎控除額110万円の適用、「教育資金贈与の非課税措置」、「都度贈与」(令和6年のレインボーニュース(5回連載))など、種々の手法を組み合わせた相続対策を検討されると宜しいと思われます。
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- 4 次回に、マンションの「理論上の市場価格の60%」等の評価計算を見てみましょう。
筆者紹介
特別顧問
弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人
- 経 歴
- 宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。