マンション(一室の区分所有権等)の相続税評価額について(その3)
2024.11.1
今回は、マンション(一室の区分所有権等)の相続税評価額を、個別通達「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」(令和5年9月28日)(本通達)に基づいて算出するのを、国税局のタックスアンサーNo.4667「居住用の区分所有財産の評価」の「計算事例」(事例マンション)を参考にして確認してみましょう。
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1 <マンションの「相続税評価額」>は、最初に「財産評価基本通達」(昭和39年4月25日)に従い、<「区分所有権の価額」(家屋)(①) +「敷地利用権の価額」(敷地)(②)> の算式で算出し、そして令和6年1月1日以後は、上記「個別通達」(本通達)に従い、後記「2の計算式」により「区分所有補正率」(③)、即ち(=「評価乖離率」(④)(理論上の評価額)×「補正率」)を乗じて評価し直します。
※ ≪計算式 =((①)+(②))×(③)(=「評価乖離率」(④)×「補正率」)≫
- (1) 「(①)」は<本通達適用前の区分所有権の価額(自用家屋としての価額)×「区分所有補正率」(③)> により算出する。
- (ア) 「自用家屋としての価額」= 「固定資産税評価額」×1 (「評価基本通達89」)。
- (イ) ≪事例マンション≫の「固定資産税評価額」は、「納税通知書」の「価格 4,000,000円」であるから、固定資産税評価額×1.0=4,000,000円となる。
- (2) 「(②)」は<本通達適用前の敷地利用権の価額(自用地としての価額)×「区分所有補正率」(③)」> により算出する。
- (ア) 「自用地としての価額」=「路線価」(1㎡当り)× 地積× 敷地権の割合(同通達7、11、13、14、89)
- (イ) ≪事例マンション≫の「登記事項証明書」の「表題部」の「**マンション」に、地積3,500㎡、敷地権の割合1,050,000分の6,300とあり、「正面路線価」を500千円/㎡と仮定すると、下記の項目を計算し「評価額」を算出する。
- a)<敷地全体の価額>=500千円/㎡×3,500㎡=1,750,000千円
- b)「本通達適用前の敷地利用権の価額」 =「敷地全体の価額」×「敷地権割合」=1,750,000千円×(6,300/1,050,000)= 10,500千円
- (3) ≪事例マンション≫の「評価額」=4,000,000円+10,500千円=14,500千円となる。
- (1) 「(①)」は<本通達適用前の区分所有権の価額(自用家屋としての価額)×「区分所有補正率」(③)> により算出する。
- 2 次に<「区分所有補正率」(③)」>は、「評価乖離率」(④)、「評価水準」(⑤)により、下記の計算式で算出します(「本通達」1項(11)、タックスアンサーNo.4667)。
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(1) <評価乖離率(④)>は、マンションの<評価基本通達による相続税評価額>と<市場価格>との乖離する割合を表しており、次の計算式で算出する。
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(ア) <計算式>は「(④)」 = 「A+ B+ C+ D+ 3.220」であり、算出値に基づき「相続税評価額」を市場価格に近づけるように補正する。
- (イ) 例えば、マンションの築年数が新しく、総階数が高く、所在階が高層階で敷地持分が小さいほど評価乖離率は高くなり、評価額が高くなる。
- ◎≪事例マンション≫の「登記事項証明書」には下記の記載がある。
- ⅰ)一棟の建物の表示(構造)… 鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付11階建
- ⅱ)敷地権の目的である土地の表示… 地積 3,500㎡
- ⅲ)専有部分の建物の表示(種類)… 居宅、床面積… 3階部分 60㎡、原因及び登記の日付… 平成○年○月○日新築
- ⇒ 築年数27年と仮定する
- ⅳ)敷地権の表示(敷地権の割合)… 1,050,000分の6,300(=6,300/1,050,000)
- ⅴ)敷地利用の面積権=地積3,500㎡ ×(6,300/1,050,000)=21㎡となる
- (ウ) 「A」等の値は下記「計算式」で算出し、≪事例≫では下記の通りとなる。
- a)「A」=「築年数」×△0.033 = 27年×△0.033=△0.891
- b)「B」=「総階数指数」(総階数÷33)=11階÷33(=0.333)×0.239 =0.079
- c)「C」= 「専有部分の所在階」(×0.018)=3階×0.018= 0.054
- d)「D」=「敷地持分狭小度」(21㎡÷60㎡=0.350)× △1.195= △0.419
- ※ 「敷地持分狭小度」(小数点4位切上)= 「敷地利用権の面積」÷「専有部分の面積」(床面積)(狭隘な敷地が評価を下げる)
- e)評価乖離率が零、負数の場合、区分所有権、敷地利用権の価額は評価しない
- (エ) 上記の計算式に上記「(ウ)」の値を算入すると、<「評価乖離率」(④)>は「△0.891+ 0.079+ 0.054+ △0.419+ 3.220」=「2.043」と算出される。
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- (2) <「評価水準」(⑤)>は、<1 ÷「評価乖離率」(④)>(「評価乖離率の逆数」)により算出されるので、≪事例≫は< 1 ÷ 2.043 =「0.4894762604」>となる。
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(ア) 「(⑤)」の算出値で下記「評価水準」の 「区分所有補正率」(③)を決定する。
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- a)【 評価水準<0.6 】 ⇒ 「区分所有補正率」(③)=「評価乖離率」× 0.6
- ⇒ この場合は「相続税評価額」(財産評価基本通達)が「理論上の市場価格」より安いので評価額が引き上げることになる
- b)【 0.6≦評価水準≦1】 ⇒「区分所有補正率」(③) 補正なし(従来の評価額)
- ⇒ この場合は「財産評価基本通達」により相続税評価額を評価する
- c)【 1 <評価水準 】 ⇒ 「区分所有補正率」=「評価額×評価乖離率」
- ⇒ この場合、「財産評価基本通達」による相続税評価額は「市場価格」より高いので、評価乖離率を乗じ、その結果、市場価格に引き下げられる
- d)【評価水準≦0(0以下)】 ⇒ マンションは「0評価」(上記(2)e)参照
- (イ) <区分所有者が一棟の区分所有建物の全専有部分を単独所有している場合>は「区分所有補正率」は1を下限とする。
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- (3) ≪事例マンション≫の場合は上記の通り<評価水準(⑤)(「0.4894762604」)>で、上記「区分表」の【評価水準<0.6】に該当し、「補正率」は「0.6」となる。
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3 上記から≪事例マンション≫の「相続税評価額」は、「評価額」((①)(4,000,000円)+(②)(10,500千円))を「区分所有補正率」(③)」(「評価乖離率(④)」×「補正率」)により補正して算出する。
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(1) 先ず「評価額14,500,000円((①)+(②))」に「評価乖離率(④)2.043 」を乗じ、<「理論上の市場価格」と言われる価額= 29,623,500円>を算出する。
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(2) 次いで「理論上の市場価格」に補正率を乗じ、<29,623,500円」×補正率 0.6>=「17,774,100円」(「(①)4,903,200円」と「(②)12,870,900円」)が算出される。
- (3) すなわち、≪区分所有補正率(③)≫ =<2.043× 0.6=1.2258>であるから、<「評価額14,500千円」×1.2258>= 「17,774,100円」となる。
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- 4 以上の通り、「個別通達」によるマンションの「相続税評価額」の算出は複雑ですが、「計算事例」で判り易くしたので計算の仕組みを覚えておくと役に立つと思います。
筆者紹介
弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人
- 経 歴
- 宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。