「タワマン節税」活用の可能性について(その4)
2024.12.2
今回は、マンション評価方法改正後の「タワマン節税」活用の可能性をマンションの性質から見ておきましょう。
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1 マンション評価方法が改正(「理論上の市場価格」の60%の評価)されたが、なお評価額40%分の引き下げと債務控除(金利負担がある)の効果が残るので、「タワマン節税」による相続対策の効果がない訳でもないと見られます(「その2」の3参照)。
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2 タワマンは、容積率の高い土地に建設され、建物の取得価額に占める割合が高いので、賃貸して建物を減価償却をすると評価額が下がり、相続税評価額を圧縮します。
- (1) タワマンを賃貸すると、相続評価額が「借家権割合30%」で、下記の通り現金の相続に比べて評価額が低くなり、土地は時価の8割程(1-(18~21%))、建物は固定資産税(建築代の6~7割)の「30%減」で建築代の約50割程となります。
- (ア)土地の相続税評価額×(1-借地権割合(60~70%)×借家権割合×賃貸割合)
- (イ) 建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合(30%)×賃貸割合)
- (2) タワマン購入後の賃貸は、賃料収入を得て建物の原価償却できるので「所得税対策」としても有用性があります。しかし以下の点を考慮する必要があります。
- (1) タワマンを賃貸すると、相続評価額が「借家権割合30%」で、下記の通り現金の相続に比べて評価額が低くなり、土地は時価の8割程(1-(18~21%))、建物は固定資産税(建築代の6~7割)の「30%減」で建築代の約50割程となります。
- 3 タワーマンションについては法的な規定がなく、一般的に高さ60m、20階以上の超高層マンションを指すとされています。
- (1) 超高層建築物は、建築基準法20条1項が定めた「構造耐力」(建築物の自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対する構造上の安全性)について国土交通省の審査と同省大臣の合格認定を受けること、高さが100m(30~33階位)を超える場合は、消防庁の「指導基準」で火災発生など緊急時避難用の屋上ヘリポートの設置を要します。
- (2) タワマンの多くは、周辺に便利な施設が集積する都心部や駅近に建造され、交通の便も良く賃貸や売買には有利な条件が備わり、将来性があるとされています。
- (ア) タワマンは、再開発の一環として開発されることも多く、ゆくゆく周辺環境が整って資産価値が高くなり、中古でも高額で売り易いと予測される。
- (イ) また高層階には、共用施設として展望室、ラウンジを設けられ魅力的で、陽当たり、眺望などさまざまな利便性がある。しかし、次の点に注意を要する。
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(ウ) 特に高層階の場合、エレベーターの待ち時間が長く、携帯電話、ポケットWi-Fiが繋がり難く、騒音の悩みもあり、洗濯物をベランダに干せないなど、毎日の暮らしに関わるデメリットがあると言われている。
- (エ) 地震が起きると、地震波の「長周期」の揺れと建物の「固有周期」が共振し易く、特に高層の上階が激しく長く揺れるので家具・家電の移動・転倒や、停電によるエレベーター、給水等のライフラインの停止など、日常生活に様々な支障が生じる虞もあり、そのための避難や安全の対策も必要となる。
- (3) 「タワマン節税」を上記の事情を踏まえて資金面(借入・返済)と便宜性の面から改めて慎重に検討して見ると、必ずしも上階に拘わる必要性がないとも言えます。
- (ア) タワマンは、低層階も高層階に劣らず眺望や採光が良く、その割に価格が比較的安いので、賃貸には低・中層階を購入するも良い選択と言えよう。
- (イ) 一般的に、20階建ての場合は1~7階位まで、40階以上の場合は14~15階位までが低層階になると見られており、災害時や停電時にエレベーターが止まった場合でも階段で移動できるといったメリットがある。
- (ウ) 都心立地や駅近の利便性、エントランスや外観の豪華さは、高層階と同様に享受でき、ラウンジやゲストルームなどの共用施設は階数に関係なく利用できる。
- 4 今後の「タワマン節税」の活用でも、相続取得後早期に「タワマン」を売り抜ける手法を取らなければ、大規模修繕への配慮を必要とします。
- (1) タワマンに限らず、マンションにおける重要な問題の一つは、経年劣化に伴い大規模修繕の時期を迎えるので修繕積立金について考えておきましょう。
- (2) 大規模修繕の費用は、マンションの規模が大きく高層になるほど維持管理費と共に増加傾向にあり、資金不足等により適切な修繕が行われないとその維持管理に大きな影響を与えると言われています。
- (3) タワマンを購入し賃貸収入を得る場合は、他の収入も念頭に置き、マンションの管理費・修繕積立金等の増額を予想し、借入返済が確実にできる無理のない資金計画を立てるなど、長期的展望をもって慎重に検討する必要があります。
- (ア) マンション分譲時の修繕積立金は少な目になされる傾向があり、年月の経過と共に収入の減少や物価上昇等があって大規模修繕時には資金不足に陥り、管理組合が区分所有者に追加負担を求めざるを得ないことがあると言われている。
- (イ) 借入金の返済額が大きい場合は、借入返済と管理費に加え修繕積立金が増額となるとマンション賃貸事業自体への負担が増大する懸念がある。
- 5 タワマンの資産価値の殆どは「建物自体の価値」で、建築後その価値が減額して行くので、将来マンション売却を考慮している場合は、次の点に注意が必要でしょう。
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(1) マンションは、容積率600%まで緩和された敷地に高層建築物を建て、価格配分が土地約30%、建物約70%の比率で資産価値の殆どは建物価格です。
- (ア) 資産価値の比率が高い建物が減額するのであれば、土地価格が相当に上昇しないとマンションの価値を維持が難しくなると言う問題もある。
- (イ) 建物が経年劣化しても資産価値を維持できるのは、都心部の限られたエリアに敷地を有するマンション、すなわち「ブランド力のあるマンション」だと言われているので「土地」の持つ価値についても考慮する必要がある。
- (2) 付け加えると、マンションは一面区分所有者の共同体であり、マンションの良好な居住環境による価値の維持には、所有者全員が管理組合のルールを遵守し協力し合うことが重要であり、中にコミュニケーション能力に欠けるクレーマーがいると維持管理に困難を来す虞のあることにも注意する必要があります。
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- 6 マンションの評価方法の改正後、「相続対策」としての「タワマン節税」の途が全く閉ざされた訳ではなく、その活用については上記の各点に配慮し、高価格帯でなく多額の借入金を要しない「中低層階」の選択をも検討し、かつ相続承継人の所得税における「タワマン投資」の効用も考慮することが大事であると思われます。その場合は専門家とも相談してみて下さい。
筆者紹介
特別顧問
弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人
- 経 歴
- 宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」