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会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その5)

2020.7.1

  1. 10. 会社の事業承継において、前回(その4)の9.の(4)で「「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与、売買、相続などにより移転させます」とお話ししましたが、先ず「売買」について取り上げます。

 

  1.  (1) 経営者が「自社株式を売却」すれば、「株式」が相続対象財産から流出し、遺留分の対象から外すことができますが、そ
  2.   の分、現預金が増加します。
  •   (ア) 後継者においては,購入資金を準備する必要がありますが、その資金力がなければ経営者は金策の手立ての相談に乗
  •     り、それが困難であれば次善の策の選択となります。売却代金の支払を曖昧にすると、贈与税を課税される恐れがあり
  •     ますので注意を要します。
  •   (イ) 後継者が資金を用立てできなければ、売買を取り止めるか、それを実行するのであれば、それ以外の者を選定する必要
  •     があります。

a)譲渡先として① 後継者以外の同族関係者、② 発行会社(自己株式の取得)、③ 従業員・従業員持株会、④ 取引先 が考

  えられます。

b)経営者は、譲渡先の選定ポイントとして、この譲渡が後継者に経営権を継承させるための対策であることを伝え、これに

  理解を示し、仮に株式の買戻しをする場合には対応してくれることなどを確認し、この意思決定をする必要があります。

 

  1.  (2) 自社株式(非上場株式)の売買における課税関係は、概略、以下の通りとなります。
  •   (ア) 自社株式を同族の後継者に売却する際の課税については、専門家に事前に相談し、適切なアドバイスを得ておくべきで
  •     す。しかし予備知識として課税関係の概略を理解し、後継者への株式譲渡の可能性、それを実現するための構想や手立
  •     てなどを検討しておけば、専門家からより適切なアドバイスを得ることができると思われます。
  •   (イ) 経営者には、譲渡所得税、すなわち他の所得と区分し、<(売買金額-取得金額)× 20%(所得税15%・住民税
  •     5%)と復興特別所得税0.315>の負担が生じます(申告分離課税)。

a)「売買金額」は「時価」によりますが、「自社株」には上場株式のような市場価格がなく、同族株主間の売買では時価と

  かけ離れた価額とする虞もあるので、恣意性が入る余地のない「税務上の時価」によるとされています。

b)「取得金額」は、オーナー企業では株式の実際の取得金額、すなわち会社に出資した資本金額となり、相続した場合は、

  被相続人の取得費となり、取得費が不明であるときは総収入金額の5%とすることができます。

c)なお、従前、経営者が自社株(非上場株式)を売却し多額の譲渡益が発生した場合に、値下がりし塩漬けになった手持ち

  の上場株式を売却して含み損を実現させれば、損益通算により税額を減額することが可能でしたが、平成25年税制改正

  で平成28年度から損益通算が廃止され、現在は認められていません。

  •   (ウ) 自社株の「売買金額」は、上記の通り「税務上の時価」、すなわち非上場株式の適正な時価によるとされております。

a)① 個人間の取引に適用される「相続税法上の時価」(相続税評価額)は、「財産評価基本通達178~189-7」に

    定められています。

  •   1)  評価方法は、取得者が同族株主か否かで異なる。
  •   2) 同族株主が取得する場合は、「財産評価基本通達」における原則的評価方法(類似業種比準方式、純資産価額方式)
  •    による。この方法による評価額は相対的に高くなる。
  •   3) 同族株主以外の者が取得する場合は、特例評価方法(配当還元方式)が適用され、相対的に低く評価される。

b)② 譲渡者が個人、取得者が法人(又はその逆)の場合に、個人には「所得税法上の時価」、法人には「法人税法上の時

    」が適用となります。

  •   1)「所得税法上の時価」は、「所得税基本通達59-6、23~35共-9」で「株当たりの純資産価額等を参酌して通
  •    常取引されると認められる価額」と定め、課税上弊害がない限り、以下を条件として「財産評価基本通達」の非上場株式
  •    の評価に準じて算定した価額によるとされている。
  •   2) その条件は次の通りである。
  1.   ❶ 株式等を譲渡または贈与した個人が「同族株主」に該当するか否かの判定は、譲渡前または贈与直前の保有する株式の
  2.    議決権数で判定する。
  3.   ❷ その株式の価額を算定する場合、株式等を譲渡または贈与した個人がその株式の発行会社にとって中心的な同族株主に
  4.    該当するときは、その発行会社は常に「小会社」に該当するものとして評価する。
  5.   ❸ その株式の発行会社が土地または証券取引所に上場されている有価証券を有しているときは、「1株当たりの純資産価
  6.    額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については,当該譲渡または贈与の時に
  7.    おける時価による
  8.   ❹ 「1株当たりの純資産価額」の計算に当たり,評価差額に対する法人税額等相当額(含み益に対する42%)は控除し
  9.    ない

c)なお、③ 法人間の取引に適用される「法人税法上の時価」は、「法人税基本通達9-1-13、9-1-14」に定め

  られており、所得税基本通達と同様「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」と定め、

  課税上弊害がない限り、前記②の❷~❹を満たすことを条件として「財産評価基本通達」によるとされています。

 

  1.  (3) なお、過去にリーマンショックによる景気後退の局面で上場株式が大きく値を下げたことに連動して、非上場株式(自社
  2.   株式)の「株式の評価方法」において株価の引き下げ効果が発生する場面がありましたが、この度の「新型コロナウィ
  3.   ス」に伴う景気後退においても、株式譲渡による事業承継のチャンスとなる可能性があるのかを検討してみる余地がある
  4.   思われます。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

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