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会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その10)

2021.9.2

  1. 15. 会社の事業承継において、(その4)の9の(4)で「「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与、売買、相続などにより移転させます」の内、今回は前回の「信託」に関連して「事業承継信託」を取り上げます。

    1. (5) 「事業承継信託」

      • (ア) この種の信託の目的は、多くは非上場会社(個人会社)が会社経営を長期に安定して継続させるために、会社の株式の相続等による分散を防止することにあり、この信託において要になる信託財産は「株式」です。
      • (イ) しかし、個人事業主の場合は、事業の基盤となる個人所有の不動産、重要な動産等を確実に後継者に引き継がせるために後記の対応を必要とします。
      •  a) 委託者は、「受託者」ら他の信託当事者と信託行為の内容を確認・検討し、その結果を合意書とし、これを公正証書とするか公証人の認証を受けておきます。
      •  b) 金融機関等からの債務を信託財産とする場合は、「受託者」が「事業信託」において、後記の通り「信託財産責任負担債務」として引き受けることを理解しておく必要があります。
      • (ウ) 高齢となった会社のオーナーは、信託を設定して、事業の承継者の受託者に株式や事業用不動産等を移転し、その管理運用を委ねながら自らに一定の権限を留保する信託の活用を考えます。
      •  a) 全財産・権限を渡さずに、株式の議決権を留保し、役員等の地位を確保する。
      •  b) 委託者あるいは委託者が指定した指図権者の指図により、受託者が株式の議決権を行使する。
      •  c) 委託者が配当金等を受領する。
      • (エ) 次期の事業承継者は決定しているが、一定の時期に他の特定者(直系卑属など)に事業承継者を変更したい場合は、前回の「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の活用を検討します。
      • (オ) 高齢となった会社のオーナーが事業承継者を決めていない場合
      •  a) 後継者候補が未成年であるとか、他の職業に就いていて直ぐに後継者を受け難い場合などや、経営者に直系卑属が無く、親族などから後継者を選定する場合は、承継取得できるまでの信託とします。
      •  b) その時は受託者として、一般社団法人を置くようにします。
    2. (6) 「事業信託」とは、個人又は法人が営む特定の事業を信託の対象とするものです。
      • (ア) 例えば、倉庫業を営むオーナーが、長男が会社員なので、事業の後継者を長男の子(孫)A又はBにしたいが、未だ幼く、適性・能力・意欲などが判らないので、「事業信託」を活用し、自己の死後は事業の片腕となっている自分の弟を事業の「受託者」とし、同人らを「事業承継指定権者」(残余財産に関する受益権者指定権者)にして、「受益者」とするA・Bが成人した時点で適任者1名を選任し、これを残余財産受益者(法182Ⅰ①)として、事業を承継させるような場合です。
      •  a) この信託では、「受託者」に対し、倉庫、事務所、敷地、車両、売掛金・営業資金、借入金・取引上の買掛金などの債務、従業員との雇用関係、得意先との契約関係、その他の機械設備など事業用財産のすべてを移転して承継させる。
      •  b) 「受託者」は、当初の受益者A、Bに対し、事業の収益からその一部を給付し、孫達の生活資金を確保し、その成長を待つ。
      •  c) 「残余財産受益者」(法182Ⅰ①)とは、「受益者としての権利を現に有する者」(例えば「残余財産の帰属」に規定する残余財産受益者)である。停止条件付で信託財産の受給権を有する者、「委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託」に規定する委託者死亡前の受益者」等は含まれない。
      • (イ) 「事業信託」は、信託法が信託行為の定めにより「信託財産責任負担債務」として債務引受けをできるとしたので(法21Ⅰ③)、可能となりました。信託行為の内容は、事業を包括して信託すると言った簡潔な条項にはできません。
      •  a) 「事業信託」は、「特定の事業」を信託の対象とし、法律的に積極財産に対する信託の設定と消極財産に対する債務の引受けからなり、その複合的な集合体について信託行為を定めることにより、実質的に委託者の事業自体を信託した状態を創出する。
      •  b) 信託行為では、積極財産及び消極財産に関すること、これらに関する取引上の地位や従業員の雇用関係の地位などにつき個別的に条項を設け、移転承継の関係や会計処理等を明らかにする必要がある。
      •  c) 「信託財産責任負担債務」とは、「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」である(信託法21Ⅰ)。
      • (ウ) 「事業信託」は、個人事業や家族型企業における特定の事業を信託の対象とする家族信託の性質を有し、これを「遺言」で行うことは難しいと思われます。
      • (エ) 「事業信託」をする場合は、専門家に相談し丁寧な検討を必要とします。
    3. (7) 信託の課税関係について税制上の優遇はありません。
      • (ア) 新たに信託の設定を行った場合、受益者が適正な対価を負担することなく受益権を取得した場合には、受益者に贈与税や相続税の負担が発生します。
      • (イ) 信託を事業承継に活用する場合には、後継者や受益者の納税資金負担も考慮に入れておく必要があります。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

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