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「民法改正」 <平成28年の最高裁判例と、預貯金の遺産分割前の仮払い制度の創設について>

2019.7.25

  1. 1 改正民法では、遺産分割前でも一定額であれば仮払いを認める制度が創設されています。
    これについては次回に説明することにし、今回は平成28年の最高裁判例に関連し、民法改正までの遺産である預貯金の払戻し請求に関する問題点をお話しします。
  2. 2 遺産である預貯金については、従来は、相続開始と同時に相続分に応じて分割され、それぞれの相続人が単独で相続分を金融機関に払戻し請求することができ、遺産分割の対象にならないとされていました。

    1. (1) これまでも全員が遺産分割協議で合意すれば預貯金も自由に分割できましたが、話合いが決裂した場合は、民法の法定相続分に従い、例えば、配偶者が1/2、残りの1/2を子供の数で等分に配分するとされ、預貯金以外にめぼしい財産がない場合で分割協議が整わないと、生前に多額の現金贈与を受けていた者が得をする不公平感が残る遺産配分となってしまうことがありました。
    2. (2) 最高裁(三)判決平成16年4月20日なども「預貯金は当然、法定の相続割合で分けられる」と判断していました。
  3. 3 しかし、最高裁(大法廷)判決平成28年12月19日は、従来の判例を変更し、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になるとしました。

    1. (1) 法定相続の場合は、預貯金は可分でなく、遺産共有となって分割の対象となり、共同相続人が分割承継することはないので、各相続人は単独で金融機関に対して払戻を請求することはできないことになりました。

      • (ア) 相続開始後、遺産分割がなされるまでは、預貯金が凍結され、相続人の一人が払戻し請求をしても、金融機関はこれを拒むことができることが明確になりました。
      • (イ) そうすると、被相続人に預貯金以外に支払いに充てる資金がない場合に、相続人がその預貯金を使えないので、相続債務や葬儀等費用を支払えず、困った事になります。例えば、被相続人から生活費や学資を負担して貰っていた子供や援助を受けていた病気療養中の者の治療費を貰えず、また納税・公共料金の支払いなどができなくなります。
    2. (2) 預貯金の払戻しができない問題を解決するには、次の方法があります。

      • (ア) 相続財産の一部だけを対象とする遺産分割を成立させるという方法です。ただし、これは相続人全員の同意を必要とします。

        • a) 相続人の1人が行方不明である場合は、遺産分割の合意ができません。
        • b) その場合の解決方法として、失踪宣告や不在者財産管理人の選任があります。
        • c) また、相続人が認知症のため判断能力が低下し意思能力が欠けている場合は、遺産分割に参加できないので、家庭裁判所で成年後見人の選任をして貰い、後見人が遺産分割に参加する方法を講じることができます。
      • (イ) 法律の制度としては、まさにこのような緊急時の制度として、家庭裁判所の判断で、遺産分割の審判を本案とする仮分割の仮処分で決定して貰うことができます(家事事件手続法200条2項)。
  4. 4 相続人全員による遺産分割協議などの余計な手続を回避するためには、遺言書を作成し、その中で預貯金等の承継方法を特定しておくことです。

    1. (1) 遺言書で分割方法の指定している場合は、承継される金額が定まります。
    2. (2) その場合は、その遺言に抵触する他の遺言がないこと、遺言の有効性について紛争・疑義が生じていないことが前提となります。

      • (ア) 通常は、預貯金も含めてすべての遺産について承継方法を記載しておきます。しかし、一部の預貯金について遺言への記載が漏れていたというケースが実際に起きたことがあります。
      • (イ) この場合は、記載漏れの預貯金は、遺産共有となって分割が必要になります。
      • (ウ) 平成28年判例の前であれば、預貯金は遺言への記載漏れがあっても、原則的に遺産分割は不要で、各相続人が各自の法定相続割合の金額を払い戻すことができました。しかし平成28年判例の解釈によって、現在ではすぐに預貯金の払戻しはできないのです。
    3. (3) 遺言書を作成する場合は、少なくとも、相続開始後直ちに必要となる資金を預貯金から引き出せるように、預貯金を誰に取得させるかなどを明確に規定し、想定外のことが生じないような対策を取っておく必要があります。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

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