会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その22)
2022.12.1
今回が「会社経営者の事業承継」シリーズの最後となります。
歴史のある会社などでは、「所在不明株主」がいるため「円滑化法」適用手続に支障が生じることがあります。そこで、その保有する株式に対する対処方法を説明します。
【Ⅶ】令和3年8月2日に施行された「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に伴う円滑化法15条の改正の趣旨及び適用要件等について
- 1 中小企業が「所在不明株主」の株式を買取る必要がある場合、会社は「所在不明株主」の居所又は相続人を、株主名簿記載の住所等から住民票・戸籍謄本等・法人登記簿等を取り寄せしても追跡できない場合は、裁判上の手続を利用せざるを得ません。
- (1) 会社法では、株式会社が「所在不明株主」(非上場株式)に対し、以下の3つの要件を満たせば競売により、又はその株式の売却(197条)が可能となります。もちろん競売代金は、その株主に支払われます。
- ① 株主への通知又は催告が5年以上継続して到達せず、通知及び催告を要しないとされているもの(会社法197Ⅰ①、196Ⅰ)
- ② その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったもの(197Ⅰ②)
- ③ その株主その他の利害関係人が一定期間(3か月以上)内に異議を述べることができる旨等を公告し、かつ個別に催告すること(198Ⅰ)
- (1) 会社法では、株式会社が「所在不明株主」(非上場株式)に対し、以下の3つの要件を満たせば競売により、又はその株式の売却(197条)が可能となります。もちろん競売代金は、その株主に支払われます。
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- (2) 会社は市場価格のない株式の場合は、裁判所の許可を得ることにより、競売以外の方法(取締役全員の同意)により売却する株式の全部又は一部を買取ること(197Ⅲ)ができます。
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2 しかし、会社法の上記「5年」の期間の長さが事業承継の手続利用に障害となる場合もあるので、円滑化法の改正で会社法の特例が設けられ、非上場の中小企業者のうち事業承継の必要性の高い株式会社に限り、経済産業大臣の認定を受け、また一定の手続保障を前提として「競売又は売却」等が簡素化されました。
- (1) 円滑化法(15条)の改正は、上記の「5年」を「1年」に短縮する「会社法特例」を創設し、上場会社等以外の中小企業者である株式会社が以下の2要件を満たす場合に、この特例を利用することができます。
- ① 申請者の代表者が年齢、健康状態その他の事情により継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、会社の事業活動の継続に支障が生じている場合であること(経営困難要件)
- ② 一部株主の所在不明のため、その経営を当該代表者以外の者(株式会社事業後継者)に円滑に承継させることが困難であること(円滑承継困難要件)
- (2) 会社法特例の適用を受けるには、都道府県知事の認定を必要とし、都道府県が認定の申請手続を受付ています。
- (1) 円滑化法(15条)の改正は、上記の「5年」を「1年」に短縮する「会社法特例」を創設し、上場会社等以外の中小企業者である株式会社が以下の2要件を満たす場合に、この特例を利用することができます。
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3 所在不明株式の買取等の方法を利用できない場合には「特別支配株主の株式等売渡請求」又は「株式併合」のスクイーズアウト(少数株主から強制的に株式を取得する方法)の制度を利用し、所在不明株主の地位を失わせる方法があります。
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(1) 「特別支配株主」は、対象会社の承認を得ることにより対象会社の他のすべての株主等に対し、その保有株式等の全部の売渡しを請求できる(会社法179 Ⅰ本文)。
- (ア) 「特別支配株主」とは、自ら単独で又は自らの100%子会社等と併せて、対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主を言う。
- (イ) 株主総会決議を必要としないので、所在不明株主の対処が無用であり、従って大幅に手続を簡素化できる利点がある。
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(2) 「株式併合」(180)とは、数個の株式(例えば10株)を併合して株式数(例えば1株)にすることを言い、スクイーズアウト(少数株主を追い出し)として利用する場合は、下記の手続きにより、株式併合により1株未満となる併合割合とし、その株式を競売等により現金化してその対価を支払い、少数株主を強制的に排除する。
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(ア) 株主総会特別決議(309 Ⅱ④)で、株式併合の割合、効力発生日等を定める際、株式併合後の「所在不明株主」の保有株式数が1株未満の端数となるような併合割合とする(180 Ⅱ)。
- (イ) 株式併合後に、会社は少数株主の有する端数株式を、競売、又は裁判所の許可を得て行う競売以外の方法(全取締役の同意を要する)により売却し、その代金をその株主に交付する(235、234 Ⅱ~Ⅴ)。
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4 「会社経営者の事業承継」シリーズは長く難しいものになりましたが、振り返って事業承継を考えることにより、会社経営上の問題に気付くこともあるので、もう一度読み直すと一層関心を持てると思います。
筆者紹介
弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人
- 経 歴
- 宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。