さいたま市・埼玉県 相続のことなら一般社団法人埼玉県相続サポートセンター
お問合せ
048-711-9183
受付時間 / 10:00 ~ 17:30 水曜定休
お気軽にお問合せください
トップ > 最新・相続ジャーナル

最新・相続ジャーナル

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その8)

2021.3.1

13. 会社の事業承継において、今回は前回の「遺言」に関連して(その7)12.の(2)(ウ)で述べた、後継者以外の兄弟姉

  妹に「議決権制限株式(無議決権株)」を取得させる遣り方を取り上げます。

 

  1.  (1) 相続財産の多くが自社株である場合に、その事業承継における相続対策として「議決権制限株式(無議決権株)」の利用を考えてみましょう。
  2.  (ア) 事例として、会社経営者が事業の後継者を長男とし自社株式を承継させたいが、相続財産の多くが株式である場合は
  3.   二男・長女への相続対応に苦慮します。

 a)遺言により後継者長男に自社株を相続させた場合に、二男・長女から遺留分侵害額請求がなされれば、自社株の集中

  相続の実現が困難となります。

 b)相続争いを避けるため、自社株を二男・長女にも分割すると、将来、株主総会での提案権、会社の帳簿閲覧請求権、

  取締役等の解任請求権などの少数株主権行使し、経営に口出され効率的な会社運営に支障を来す虞があります。

  1.  (イ) それを回避する手法として、二男・長女に「議決権制限株式(無議決権株)」を相続させる方法があります。そ
  2.   場合に、無議決株式を発行するには、後記の通り「会社定款」にその旨の規定が設けられている必要があります。

 a)「議決権制限種類株式」とは、株主総会の全部または一部の事項について、議決権の行使を制限できる株式を指し、

  会社法は「種類株式」と位置付け、保有株式数と議決権との関係を分離することを可能にした。

 b)「議決権制限株式」は、1) 完全無議決権株式、2) 特定の事項のみの議決権制限株式,の種類の株式を定めること

  ができる。

 c)「議決権制限株式」は、普通株式でも発行できるし、配当優先株とすることもできる。

  1)  一定の株式を全事項について議決権を有しない「完全無議決権株式」(配当優先権付)にすれば、相続人の内、

   議決権行使に関心のない二男・長女にこの株式を与えれば、後継者長男に経営権を集中させられる。

  2) 株式発行に当たっては、将来の相続を見据えて、予め株式の一部を配当優先及び取得請求権付の議決権制限株式の

   種類株式にして置くと良い。

  1.  (ウ) オーナー経営者一族の持株比率が低い場合などには,分散している株式を無議決権株式に転換することにより、
  2.   議決権を確保できるようになります。
  3.  (エ) 社員持株会がある場合は、その株式を配当優先権付の無議決権株式とすれば、オーナー経営者一族の議決権を確保し
  4.   安定的な経営が可能となります。

 

  1.  (2) この株式を発行する場合は、定款で発行可能種類株式総数と議決権行使事項・条件を規定しなければならず(108Ⅱ③,但しⅢ・規則20Ⅰ③)、定款に規定を設けるには、株主総会での特別決議(効力発生要件)を要し、また定款の変更登記を必要とします。

 

  1.  (3) 非公開会社」では、議決権制限種類株式の発行数(発行割合)に制限がありません。従って、例えば普通株式1株を除いた残りの全てを無議決権株とすれば、1株で会社経営を牛耳ることができます。なお「公開会社」は、発行済の議決権制限種類株式の総数が発行済株式の総数の2分の1を超えることはできません(会115条)。
  •  (ア) 種類株式を発行すると、会社が一定の行為をする場合に種類株式に損害を及ぼす虞があるときは、種類株主総会の
  •   承認が必要となります(会322Ⅰ)。
  •  (イ) 定款変更に際し、種類株式の内容として、上記の種類株主総会の決議を要しない旨を定款に定めておくことが肝要
  •   であり(会322ⅡⅢ)、その定めがない場合は、種類株式が一種の拒否権付株式(黄金株)になってしまう虞がありま
  •   す。

 

  1.  (4) 経営者は、遺言書を作成し、後継者長男に普通株式を、二男・長女に議決権制限株式(配当優先株とする)を相続させるものとします。
  •  (ア) 議決権行使を制限する代わりに、剰余金の配当を優先とする配当優先権付議決権制限株式を発行し、二男・長女に
  •   与えるようにします。
  •  (イ) 遺言書は、例えば「遺言者は、相続人長男〇〇に議決権のある株式を、相続人次男・長女〇〇には、配当優先の無
  •   議決権株式を相続させる」などとします。

 

  1.  (5) 「完全無議決権株式」の評価は、原則として議決権の有無を考慮しません。
  •  (ア) 例外として、その評価について配当優先(劣後)の評価(同族株主が相続等で取得した場合)の特例があり、相続
  •   全員の同意の下に、配当優先株の評価又は原則的評価方法により評価した金額の95%相当額とした場合は、議決権株式
  •   の価額に評価減の5%を加算して評価することができます。
  •  (イ) 但し、次の要件が満たされる必要がある。

 a)相続税の法定申告期限までに、株式の遺産分割協議が確定し、相続取得した全同族株主から法定申告期限までに

   「無議決権株式の評価の取扱いに係る選択届出書」が、所轄税務署長に提出されていること。

 b)その相続税の申告に当たり、「取引相場のない株式の評価明細書」に、上記の調整計算の算式に基づく無議決権株式

   及び議決権のある株式の評価額算定根拠を、適宜の様式で記載して添付すること。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

もっと知り隊!第1回 新たな認知症対策「家族信託」とは?

2021.2.1

突然ですが認知症になり、判断能力がなくなるとどうなると思いますか?

1つ目は銀行口座が凍結される恐れがあります。

2つ目は不動産の売却、管理、修繕ができなくなります。

 

今までの法律だと、成年後見制度を使うしか方法がありませんでした。

しかし、成年後見制度は家庭裁判所に監督され、相続税対策ができない、不動産の売却に家庭裁判所の許可がいる、後見人に司法書士や弁護士などの専門家が就任する可能性がある、といったデメリットがあり、世間の評判はよくありません。

 

そこで登場するのが家族信託です。

 

家族信託とは、親が元気なうちに信頼できる子に財産の管理を託すという契約です。

※子以外が財産を管理する場合もあります。

 

家族信託をすると、財産の管理・運用は子に任せて、収益は親が受け取ることが出来ます。

 

 

これまでの法律では、財産を持っている人(所有者)は管理・処分権限と、利益を得る権限をどちらも持っているため、財産を持っている人が認知症になったり、死亡したときに、財産の管理や処分で困ることがありました。

 

アパートなら、修繕などの管理と、賃料をもらう権利が所有者にあるため、所有者が認知症になると、修繕が難しくなり、相続で財産を高齢な配偶者に渡すと、そこでもまた管理が難しくなる場合があります。

 

管理・処分権限と利益を得る権利は分離できず、常に所有者が持つためです。

 

 

ところが、家族信託を設定すると、財産の管理・処分を信頼できる家族に任せて、利益を得る権利を自分が指定できる人に渡せます。

 

アパートなら、修繕や不動産業者とのやりとりは家族に任せ、賃料は自分が指定する人に代々受け継がせることができます。

 

信託をすれば、管理・処分権限と利益を得る権利を分離することができ、自分の指定する人に渡せるためです。

 

このように、財産を管理する人と利益をもらう人を分けることが可能になり、財産の管理方法の様々な不安や悩みを解決できるようになりました。

 

 

しかし、家族信託は新しい制度であり、非常に高度な知識が要求されるため、家族信託業務を行える専門家が少ないのが、現状です。

家族信託は契約によっては今後20年、30年と続くこともあり、契約を結んだときではなく、財産を持っている方(委託者)の死亡や、親族が死亡したときに契約書の欠点が出てきてしまう可能性があります。

 

必ず家族信託の相談実績が多く、契約後のアフターフォローまで対応してくれる専門家に相談することをおすすめします。

筆者紹介

司法書士

林 祐司(司法書士事務所 相続・家族信託の窓口 代表)

経 歴
さいたま市浦和区に相続・家族信託専門の司法書士事務所を立ち上げ、相談件数は年間100件を超える。 敷居が低い司法書士、親身に話を聞いてくれる司法書士、フットワークの軽い司法書士をモットーに土日祝日も営業、年中無休で活動を続ける。                   〈事務所概要〉〒330-0061 埼玉県さいたま市浦和区常盤2-17-3 ℡:048-749-1111

税理士が解説!第3回 居住用財産の特例の適用関係について

2021.1.20

Q:本年に自宅(「居住用財産」といいます。)を売却する予定ですが、

  各種居住用財産の特例の適用関係について教えて下さい。

 

A:居住用財産を譲渡した場合には、一定の要件を満たすことを条件に、次の特例を受けることができます。

 

【措法31の3】

居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率の特例)

【措法35①】自己の居住用財産の譲渡所得の特別控除(譲渡益から3,000万円控除)

【措法36の2①】

特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(譲渡益の繰延べ)

【措法41の5】

居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

(買換えの場合の居住用の損失の損益通算等)

【措法41の5の2】

特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

(ローン残があった場合の居住用の損失の損益通算等

 

 各種居住用財産の特例については、譲渡損益の別と、譲渡した居住用財産の所有期間で区分すると、次の組み合わせの中から選択することになります(組み合わせのうち、任意で一部の特例の適用を受けないという選択も可能です。)

 なお、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(措法41)も受ける特例によって併用することができる場合があります。

 

(1)譲渡益の場合

  □所有期間10年超の場合…措法35①+措法31の3

  □所有期間10年超かつ居住期間10年以上の場合…措法36の2②

  □所有期間10年以下の場合…措法35①

(2)譲渡損の場合

  □所有期間 5年超の場合…措法41の5(+措法41)

  □所有期間 5年超の場合…措法41の5の2(+措法41)

(注)同年に措法35①と措法36の2の適用を受けた場合には、併用することができず、措法35①が適用されることに

  なります。

各種居住用財産の特例の適用関係(措法35以外は国内財産に限ります。)

 

損益 所有期間 所得控除等 税率

 措法41

 控除適用

 

 

10年超 措法35①

(所有期間の要件なし)

措法31の3・・・

6,000万円以下14.210%

6,000万円超20.315%

併用不可
措法36の2②

(居住期間10年以上)

20.315%
10年以下 措法35①

(所有期間の要件なし)

5年超・・・20.315%

5年以下・・・39.630%

措法35③

(所有期間の要件なし)

5年超・・・20.315%

5年以下・・・39.630%

併用可

5年超 措法41の5

併用可
措法41の5の2

※ 20.315%…長期譲渡所得の課税の特例(措法31①)

    39.630%…短期譲渡所得の課税の特例(措法32①)

 なお、上記税率には住民税(根拠条文は省略)も含みます。

筆者紹介

税理士

高橋 安志(税理士法人 安心資産税会計 社長  一般社団法人 安心相続相談センター 理事)

経 歴
昭和26年 山形県大石田町生まれ 中央大学商学部卒業 [取材] 日本経済新聞、朝日新聞、週刊新潮、週刊ダイヤモンド、 サンデー毎日などに相続専門税理士として取材記事多数寄稿 [著書] 「小規模宅地の特例の活用」など著書累計27冊(2019年現在) [TV関係] ・テレビ埼玉・千葉テレビ・テレビ神奈川のマチコミ(水)という番組で準レギュラー生出演 ・TVCM 放映:月曜 TBSTV 5:30~ (あさちゃん)、木曜 テレビ埼玉22:00~ (ゴルフ番組)、日曜 テレビ埼玉 6:00~ (ゴルフ番組)

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その7)

2021.1.4

12. 会社の事業承継において、(その4)の9.の(4)で「「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与・売買・相続

  などにより移転させます」の内、今回は前回の「相続」に関連して「遺言」を取り上げます。

 

  1.  (1) 事業承継においても、「遺言」による相続対策は重要です

 

  1.  (2) 遺言は(その1)の6.で、会社オーナーが指名した後継者に事業を承継させるための財産の移転となります。
  •  (ア) 事業承継の対策を練った上で遺言書を作成します。遺言書は書き換えができるので、後日後継者に変更がある場合は
  •   早期に書き直すものとします。
  •  (イ) 後継者への「自社株式」を取得させる割合は、特別決議ができる3分の2とすることが望ましいのです。その理由は(その3)の8.で述べてあります。
  •  (ウ) さもなければ、後継者に普通株式をその他の相続人に議決権制限株式(配当優先株とする)を相続させるように考慮
  •   すべきです
  •  (エ) オーナーは、遺言書の「附言事項」に会社に対する想いと、スムーズな事業承継のために後継者を指定し、遺産を承
  •   継させる理由などを記載し、相続人らに説明し、相続人間に揉め事が生じないようにすることも大事です。
  •  (オ) 遺言書は、「自筆証書」よりもその効力に問題が起き難い「遺言公正証書」とし、遺言の内容は専門家に相談するなど
  •   して慎重に決定する必要があります。

 

  1.  (3) 遺言をするに当たっては、次の事項に留意しましょう。
  •  (ア) 後継者に上記の通り、経営権を安定させるに足る数量の株式、あるいは種類株式、その他の重要な資産を取得させます。
  •  (イ) 後継者以外の相続人に対しては、少なくとも遺留分を満足させる資産を取得させます。

a)その対応策として,受取人を後継者とし、後記の遺留分侵害額の支払に足りる金額を取得できる生命保険契約を締結し

 ておくのも一策です。

b)あるいは、一定額の財産を生前贈与し、家庭裁判所の許可を受けて、相続の開始前に遺留分の生前放棄(民法1049条)

 をして貰うようにします。

  •  (ウ) 「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」(民法改正(令和元年7月1日)に変更されたので、遺留分は侵害額の金銭請求のみとなり、具体的金額の請求があればその翌日から遅延損害金の支払義務が発生することになります。

a)金銭の代わりに相続財産を交付すると、従前とは異なり、税務上、当該物を売却して金銭を支払ったものとみなされ、

 譲渡所得の課税があります。

b)遺留分は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき」、又は

 「相続開始の時から10年を経過したとき」に時効によって消滅します。(1048条)。

 

  1.  (4) これまで述べた「生前(相続前)」になす「売買」と「生前贈与」の承継方法に対し、「死後」のためになす「遺言」と
  2.  「死因贈与契約」の承継方法との特長点を対比しておきます。
  •  (ア) 「売買」は一般的に言えば、承継者と被承継者との相続財産の関係を切断できるメリットがあります。
  •  (イ) 株式については売買ではなく、特典のある生前贈与の検討が重要です。

a)「生前贈与」は、オーナーの存命中に承継させる便宜さがあり、また株式評価の特例、贈与税・相続税の免除の規定を

 適用することができます。

b)しかし、それが「特別受益」に該当すると相続財産への「持戻し」が問題となるので、遺言書で「持戻免除」の意思表

 示をしておく必要があります。

c)「特別受益」に該当する贈与の評価時期が相続時(民法1043条)となるので、遺留分の価格が上昇することがあります。

  •  (ウ) 「死後」の承継方法である「遺言」と「死因贈与」には、次の特徴があります。

 ①事業承継では「遺産分割協議以外の方法で事業用資産を承継者に承継させる」ことが重要であって、「遺言書」を書き

  置くことでそれを実現できます。

 ②「遺産分割協議」による場合は、相続開始時に「株式」等が準共有状態となりますが、遺言を遺すことによりこれを防

  止できます。

 ③遺言と死因贈与の場合は相続に伴う執行が必要になり、手間と時間が掛かるデメリットがありますが、それは専門家に

  委任することで省くことができます。

 

  1.  (5) 遺言書がなく遺産分割協議となり、その協議が整わないと議決権が行使でなくなります
  •  (ア) 遺産分割協議が成立しないと、株式は相続人の「準共有」状態になり、株主権を単独で行使できる者はいないので、
  •   取締役すら選任できず(株式数の過半数による「普通決議」を要する)会社の運営ができない状況になります。
  •  (イ) <共有者による権利行使者の決定>は、通常、共有物の管理に関する事項として各共有者の持分の価格に従い、その
  •   過半数で決します(民法252条本文)。
  •  (ウ) 会社法106条は、共有者による権利の行使について「株式が2以上の者の共有に属するときは、当該株式について
  •   の権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ当該株式についての権利を
  •   行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合はこの限りでない。」と規定し
  •   ています。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その6)

2020.10.1

11. 会社の事業承継において、(その4)の9.の(4)で「「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与、売買、相続

  などにより移転させます」の内、今回は「贈与」と「相続」について取り上げます。

 

  1.  (1)株式の贈与については、一般の贈与(暦年贈与)と「相続時精算課税制度」による贈与(相続税の課税対象となる)

  ものとがあります。

 

  •  (ア)<一般の贈与(暦年贈与)の場合>は、株式の価額、すなわち 「相続税評価額」に課税がなされます。
  •  a)非上場株式(取引相場のない株式)の株価の評価方法には、「類似業種比準方式」、「純資産価額方式」、「配当還
  •   元方式」があります。
  •   1)「類似業種比準方式」は,国税庁が業種ごとに公表する上場企業の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額

   から、類似している業種の株価を参考にして株価を評価します。

  •   2)「純資産価額方式」は、相続税評価額による会社の純資産価額(資産・負債 を時価評価し、その差額の時価純資
  •    )を株主持分として株価を評価します。但し、純資産価額から帳簿価額を差し引いた差額の税額を控除します。
  •   3)「配当還元方式」とは、企業の配当金額を資本還元率で除して株価を算定します。
  •  b)各評価方式の特徴は、「類似業種比準価額」が「純資産価額」に比べて低くなる傾向があります。
  •  c)110万円の基礎控除がありますが、株価が高額であると贈与税の負担が大きくなり、また贈与税の税率も高くなり
  •   ます。また、遺留分の問題が残ります。
  •  (イ)<「相続時精算課税制度」による贈与の場合>は後日、相続開始の時点で相続税の課税対象となることがありま
  •    す。
  •  a)<限度額:2,500万円>の基礎控除(特別控除額)があり、贈与税額は贈与財産の価額の合計額から、複数年にわた

  り利用できる特別控除額(2,500万円)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。

  •  b)自社株式、現金、不動産等を対象にすることができます。
  •   1)自社株式の贈与のポイントは、「株価算定の基準が贈与時」となり、「相続時」ではない点にあります。
  •   2)そこで、自社株の株価が上昇機運にある企業では、株価引き下げ対策を行って後継者に自社株を生前贈与する方策

  を採るべきであり、「新型コロナ不況」下もその時期と言える場面であるかも知れませんので、検討を要します。

  •   3)オーナー社長が還暦前は暦年贈与の基礎控除110万円を活用し、その間に株価引き下げ対策を実施し、還暦後、

  相続時精算課税制度を活用して贈与をする策もあります。

  •  c)生前贈与財産は,その制度名通りに相続財産に持ち戻され「相続時に精算して課税」されるので注意を要します。基
  •   礎控除額を超過しなければ問題はありません。
  •  d)贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日におい
  •   て20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫とされています。
  •  e)相続時精算課税は、受贈者(子又は孫)が贈与者(父母又は祖父母)ごとに選択できますが、一旦選択すると選択し
  •   た年以後、贈与者が亡くなる時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできません。
  •  (ウ)取引相場のない株式(議決権のある株式)等の贈与税の納税猶予制度の利用も可能です。
  •  a)「経営承継円滑化法」(略称)による都道府県知事の認定を受けると、後継者が非上場会社の株式等を先代経営者等
  •   から贈与・相続により取得した際、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除されますが、詳しくは専門家に相談してくださ
  •   い。
  •  b)この制度は「事業承継税制」と呼ばれ、個人事業者の事業用資産の贈与・相続の場合にも適用されます。

 

  1.  (2)相続による事業承継では、後継者に、できれば全株式を取得させる遺言を残すのが重要ですが、遺留分侵害額請求の

  問題は解決しておくべきです。

 

  •   (ア)遺言により後継者に有利に株式を取得させ、会社定款に株式の譲渡制限と売渡請求の定めを設けると、他の相続
  •     人が株式を取得しても強制的に買い取ることができます。
  •   (イ)遺言がないと、遺産分割協議の場で事業承継が問題がとなり、分割協議が整わないと、株式が宙に浮いてしまい
  •     会社の議決権の行使・運営が困難となります。
  •   (ウ)相続人株主が後継者以外にもいると、その議決権を振りかざし、後継者の意図に反する議決権行使をして会社運
  •     営が困難になることがあります。
  •   (エ)遺言は「遺言公正証書」によるものとし、その具体的な対策は専門家に相談してください。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

税理士が解説!第2回 相続後空き家住宅の譲渡所得特別控除制度

2020.9.20

制度の概要

 

 相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(相続人でない包括受遺者である個人を含みます)が、2016年4月1日から2023年12月31日までの間に、その取得をした被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等について、一定の要件を満たす譲渡をした場合には、居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、居住用財産の譲渡をした場合の3,000万円特別控除を適用できることとされました。
 上記の特例を適用するためには下記の要件を満たすことが必要です(他にもいくつか要件があります。)

 

                        【要件3】
                        2016年4月1日~ 2023年12月31日
                        相続開始日以後3 年後の年末までの譲渡2

   相続開始直前        父相続※1   

 

要件1】            【 要件5】      

建物はS 56.5.31 迄に建設着手   譲渡まで未利用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1【 要件 2 】 2013 年 1 月 2 日から 2023 年 12 月 31 日までの相続
2【 要件 8 】 譲渡対価が 1 億円以下

 

 今回は、事例形式でご紹介いたします。

Q:共有で相続又は遺贈により取得した場合

 一人暮らしをしていた父が死亡し、建築後50年(昭和40年代)を経過したその居住用家屋と敷地等をそれぞれ相続人

A(長男)と相続人B(次男)が40 %と 60 %の共有で取得し、その家屋を取壊して敷地等を90,000,000円で譲渡しました。AとBはそれぞれ相続後空き家住宅の譲渡所得特別控除を受けることができますか?

A:AとBそれぞれ1人につき 3,000 万円ずつ適用を受けることができます(要件を満たす人の数 ×3,000万円適用可と

なり、最大で30,000,000円 × 20.315%(譲渡税率)× 2人= 12,189,000 円の節税になります)。
 要件を満たせば、適用を受けることができる人数については制限がありません。
 特例の対象となる家屋とその敷地等について相続後に売却予定である場合は、共有で取得すると税金の負担を抑えることができます。
 ただし適用を受けるためには全体の譲渡対価の額が100,000,000円以下である必要があります。
 本問のケースでは、全体の譲渡代金が90,000,000 円ですので、 A は36,000,000円、Bは 54,000,000円となり、合計で100,000,000 円以下であるため適用できることになります。

図解
 父の居住用家屋と敷地等
 全体の譲渡代金90,000,000 円

        

  

  Aの譲渡     Bの譲渡
  36,000,000円    54,000,000 円

 

Aと B の本特例適用判定
(1)A の1億円判定
 Aの譲渡 36,000,000 円 ≦ 100,000,000 円
 +B の譲渡 54,000,000 円 =90,000,000 円 ≦ 100,000,000 円  ※特例の適用あり
2)B の1億円判定
 Bの譲渡 54,000,000 円 ≦ 100,000,000 円
 +A の譲渡 36,000,000 円 =90,000,000 円 ≦ 100,000,000 円   ※特例の適用あり

筆者紹介

税理士

高橋 安志 税理士法人 安心資産税会計 社長 一般社団法人 安心相続相談センター 理事

経 歴
昭和26年 山形県大石田町生まれ 中央大学商学部卒業 [取材] 日本経済新聞、朝日新聞、週刊新潮、週刊ダイヤモンド、 サンデー毎日などに相続専門税理士として取材記事多数寄稿 [著書] 「小規模宅地の特例の活用」など著書累計27冊(2019年現在) [TV関係] ・テレビ埼玉・千葉テレビ・テレビ神奈川のマチコミ(水)という番組で準レギュラー生出演 ・TVCM 放映:月曜 TBSTV 5:30~ (あさちゃん)、木曜 テレビ埼玉 22:00~ (ゴルフ番組)、日曜 テレビ埼玉 6:00~ (ゴルフ番組)

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その5)

2020.7.1

  1. 10. 会社の事業承継において、前回(その4)の9.の(4)で「「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与、売買、相続などにより移転させます」とお話ししましたが、先ず「売買」について取り上げます。

 

  1.  (1) 経営者が「自社株式を売却」すれば、「株式」が相続対象財産から流出し、遺留分の対象から外すことができますが、そ
  2.   の分、現預金が増加します。
  •   (ア) 後継者においては,購入資金を準備する必要がありますが、その資金力がなければ経営者は金策の手立ての相談に乗
  •     り、それが困難であれば次善の策の選択となります。売却代金の支払を曖昧にすると、贈与税を課税される恐れがあり
  •     ますので注意を要します。
  •   (イ) 後継者が資金を用立てできなければ、売買を取り止めるか、それを実行するのであれば、それ以外の者を選定する必要
  •     があります。

a)譲渡先として① 後継者以外の同族関係者、② 発行会社(自己株式の取得)、③ 従業員・従業員持株会、④ 取引先 が考

  えられます。

b)経営者は、譲渡先の選定ポイントとして、この譲渡が後継者に経営権を継承させるための対策であることを伝え、これに

  理解を示し、仮に株式の買戻しをする場合には対応してくれることなどを確認し、この意思決定をする必要があります。

 

  1.  (2) 自社株式(非上場株式)の売買における課税関係は、概略、以下の通りとなります。
  •   (ア) 自社株式を同族の後継者に売却する際の課税については、専門家に事前に相談し、適切なアドバイスを得ておくべきで
  •     す。しかし予備知識として課税関係の概略を理解し、後継者への株式譲渡の可能性、それを実現するための構想や手立
  •     てなどを検討しておけば、専門家からより適切なアドバイスを得ることができると思われます。
  •   (イ) 経営者には、譲渡所得税、すなわち他の所得と区分し、<(売買金額-取得金額)× 20%(所得税15%・住民税
  •     5%)と復興特別所得税0.315>の負担が生じます(申告分離課税)。

a)「売買金額」は「時価」によりますが、「自社株」には上場株式のような市場価格がなく、同族株主間の売買では時価と

  かけ離れた価額とする虞もあるので、恣意性が入る余地のない「税務上の時価」によるとされています。

b)「取得金額」は、オーナー企業では株式の実際の取得金額、すなわち会社に出資した資本金額となり、相続した場合は、

  被相続人の取得費となり、取得費が不明であるときは総収入金額の5%とすることができます。

c)なお、従前、経営者が自社株(非上場株式)を売却し多額の譲渡益が発生した場合に、値下がりし塩漬けになった手持ち

  の上場株式を売却して含み損を実現させれば、損益通算により税額を減額することが可能でしたが、平成25年税制改正

  で平成28年度から損益通算が廃止され、現在は認められていません。

  •   (ウ) 自社株の「売買金額」は、上記の通り「税務上の時価」、すなわち非上場株式の適正な時価によるとされております。

a)① 個人間の取引に適用される「相続税法上の時価」(相続税評価額)は、「財産評価基本通達178~189-7」に

    定められています。

  •   1)  評価方法は、取得者が同族株主か否かで異なる。
  •   2) 同族株主が取得する場合は、「財産評価基本通達」における原則的評価方法(類似業種比準方式、純資産価額方式)
  •    による。この方法による評価額は相対的に高くなる。
  •   3) 同族株主以外の者が取得する場合は、特例評価方法(配当還元方式)が適用され、相対的に低く評価される。

b)② 譲渡者が個人、取得者が法人(又はその逆)の場合に、個人には「所得税法上の時価」、法人には「法人税法上の時

    」が適用となります。

  •   1)「所得税法上の時価」は、「所得税基本通達59-6、23~35共-9」で「株当たりの純資産価額等を参酌して通
  •    常取引されると認められる価額」と定め、課税上弊害がない限り、以下を条件として「財産評価基本通達」の非上場株式
  •    の評価に準じて算定した価額によるとされている。
  •   2) その条件は次の通りである。
  1.   ❶ 株式等を譲渡または贈与した個人が「同族株主」に該当するか否かの判定は、譲渡前または贈与直前の保有する株式の
  2.    議決権数で判定する。
  3.   ❷ その株式の価額を算定する場合、株式等を譲渡または贈与した個人がその株式の発行会社にとって中心的な同族株主に
  4.    該当するときは、その発行会社は常に「小会社」に該当するものとして評価する。
  5.   ❸ その株式の発行会社が土地または証券取引所に上場されている有価証券を有しているときは、「1株当たりの純資産価
  6.    額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については,当該譲渡または贈与の時に
  7.    おける時価による
  8.   ❹ 「1株当たりの純資産価額」の計算に当たり,評価差額に対する法人税額等相当額(含み益に対する42%)は控除し
  9.    ない

c)なお、③ 法人間の取引に適用される「法人税法上の時価」は、「法人税基本通達9-1-13、9-1-14」に定め

  られており、所得税基本通達と同様「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」と定め、

  課税上弊害がない限り、前記②の❷~❹を満たすことを条件として「財産評価基本通達」によるとされています。

 

  1.  (3) なお、過去にリーマンショックによる景気後退の局面で上場株式が大きく値を下げたことに連動して、非上場株式(自社
  2.   株式)の「株式の評価方法」において株価の引き下げ効果が発生する場面がありましたが、この度の「新型コロナウィ
  3.   ス」に伴う景気後退においても、株式譲渡による事業承継のチャンスとなる可能性があるのかを検討してみる余地がある
  4.   思われます。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その4)

2020.5.1

  1. 9. 会社の事業承継においては、(その2)の7.の(4)で述べたように「経営者は、「株式」と「事業に必要な資産」を必ず後継者の管轄下に移転させる」方策として、先ず後継者に「自社株を集中」して取得させることが重要でしたが、経営者が保有する資産の種類はまちまちなので、「株式の承継」をするための準備として「経営者個人の財産の組み換え」を必要とする場合があります。今回はそのことなどについて話します。

 

  1. (1) 「自社株」とは、同族会社のオーナー社長やその一族が所有する株式を言います。経営者が個人財産を「自社株」のほかに、会社のため使用している「事業用財産」(不動産の貸付け・貸付金など)を多く保有する場合は、「遺言書」を遺したとしても後継者にそれらを承継させると、後継者以外の相続人への配分との間に不均衡が起こり、遺留分侵害額請求などの相続争いとなるリスクがあります。

 

  1. (2) これを防止するための対策として、経営者の「事業用財産」を会社に売却して金融資産(売却代金)などの「非事業用財産」に組み換える方法を検討して置くべきです。これは、専門家の助言を得て安全策を講じてください。
  •   (ア) 経営者が会社に賃貸している「事業用不動産」を会社に売却すると、「事業用財産」を「不動産 ⇒ 金融資産」に組み
  •     換え、経営者の相続財産から解放することができます。すると、相続時に「他の相続人」に配分可能な金融資産を増加
  •     させることができます。
  •   (イ) 一方、会社の「事業財産」が「金融資産 ⇒ 不動産」に組み換わることにより、会社の「事業財産」の評価を引き下げ
  •    「自社株」を低廉化させます。会社の不動産取得の財源を銀行融資で対処すれば、債務の増加により「自社株」の評価を
  •     引き下げる効果があります。
  •   (ウ) しかし、経営者の財産は「不動産 ⇒ 金融資産」に組み換わり、相続財産の評価額が上がるので、その対策を必要とし
  •     ますが、金融資産になれば経営者は、生前にいろいろある対策からある程度自由に選別し対処できるようになります。

 

  1. (3) 更に、自社株の評価を引き下げるために「事業財産」を減少させる方策を考慮しておきます。
  •   (ア) 先ず、「自社株」評価の引き下げ対策として、いずれやってくる経営者の役員退任に当たって相当額の退職金を受領
  •     ることにより、会社の「事業財産」を減少させられますが、その分、経営者に金融資産を増加させます。
  •   (イ) また、経営者の会社への「貸付金」は、金融機関からの借入金で返済することにより経営者に金融資産を増加させ
  •     ますが、経営者は生前にその対策をなすことができます。会社財産では負債の入れ替えとなります。

 

  1. (4) 「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与、売買、相続などにより移転させますが、同族会社での株式移転になるので、その評価は取得者が同族株主であるか同族株主以外の者かによって、次のことを留意する必要があります。
  •   (ア) 「自社株」は「非上場株式」なので、上場株式と異なり国税庁の「財産評価基本通達」の「取引相場のない株式等の評
  •     価」に基づき、大・中・小の会社規模に応じた区分による評価方式で評価することになります。
  •   (イ) また、「自社株」を贈与や相続で取得した株主が「同族株主」か「それ以外の株主」かによって評価方法が変わり
  •     す。その理由は、同族株主の場合は会社経営への影響・支配力があるので、株式の評価額が変わります。
  • a)支配権を有する同族株主が取得する株式の評価は、会社の業績や資産内容等を反映した「原則的評価方式」(「類似業種比準方式」、「純資産価額方式」及びその併用方式)で評価し、同族株主以外の少数株主の場合は、比較的評価額が低くなる「特例的評価方式」(「配当還元方式」)によることになります。
  • b)同族株主である者が中心的な同族株主以外の株主でも、株式の移動により5%以上の所有割合となるときは「配当還元方式」が適用できず、原則的な評価方法となってしまうので注意を要します。
  • c)また、会社の保有資産の大半が「株式・土地等の資産内容が特異な会社」等で営業状態が特異な会社(「特定会社」)の場合は、通常の事業活動を前提とする評価方法は馴染まないので、個別にその評価方法が定められています。
  •   (ウ) 以上の対処は、専門的知識を持って慎重に対処する必要がありますので専門家に相談する必要がありますが、事業承継
  •     に当たっては、このような配慮が必要であるとの知識を持っておくことによって専門家からより適切なアドバイスを得
  •     ることができると思われます。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その3)

2020.2.1

  1. 8. 前回の(その2)は、7.の(4)で「経営者は「株式」と「事業に必要な資産」を必ず後継者の管轄下に移転させるための対策」の中の一つとして次の項目を記載しましたので、それについて話をします。

 

③  後継者に会社を確実に支配させるためには、株式の保有割合を「特別決議権を行使できる3分の2を確保」させ、経営者一族による会社経営を長期的に安定させる方策を採る。

 

  • (1) 中小企業では、経営者は会社経営に全力を傾けて長期的に安定を図ることに心血を注ぎ、それを「一族による経営権を確保」するため後継者に託します。
  •   (ア) 「経営権を確保」するための理想的な手法としては、株式の保有割合を「特別決議権を行使できる3分の2の確保」することにあります。
  •   (イ) 会社法は株主の権限を次の通り定めており、会社支配のためには次の保有割合の株式を所有する必要があります。これにより会社支配に影響を与えることができます。
  • a)3分の1以上の保有する場合 会社の解散・合併などの重要案件に関する株主総会での特別決議に対する拒否権を持つ
  • b)2分の1以上の保有する場合 取締役選任など株主総会での普通決議の可決が可能であり、いわば経営支配権を持つ
  • c)3分の2以上の保有する場合 取締役選任、監査役解任、定款変更、合併など株主総会での特別決議の可決が可能
  •   (ウ) 以上のように「一族による経営権を確保」するためには、後継者に株式を集中させることが大事で、株式の保有を拡散させる相続・贈与は御法度となります。
  1. (2) 会社法は、株主総会の決議は普通決議・特別決議・特殊決議の3種類に分けられ、そのほかに株主全員の同意があります。次に、決議の種類について説明しておきます。
  •   (ア) 株主平等の原則より通常の決議は、議決権を基にした単純多数決ないしは加重多数決を決議成立の要件とし、一部については議決権に限らない決議要件を設ける場合があります。
  •   (イ) 「普通決議」とは、特別の要件が法律又は定款で定められていない場合の決議です(会309Ⅰ)。
  • a)議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、その出席株主の議決権の過半数で決定する。
  • b)この定足数は定款で軽減又は排除することができ、定足数を完全に排除し、単に出席株主(人数は問わない)の議決権の過半数で決めるとする会社が多い
  • c)定足数の例外として役員(取締役・会計参与・監査役)の選任・解任の決議等については、定款による「定足数の引き下げ」は議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1までにしかできない。
  •   (ウ)「特別決議」とは、一定の重要な事項の決議(会309Ⅱに列挙されている)議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数で決定する決議です。
  •   1) この定足数は、定款で3分の1まで軽減することができる。
  •   2) 決議要件である3分の2基準は、定款で引き上げることが認められ、更に一定数以上の株主の賛成を要する等を定款で定めても良い(会309Ⅱ)。
  •   (エ)「特殊決議」とは、上記の特別決議以上の厳重な要件の決議です。
  •   1) 議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めることも可)で、かつ当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めることも可)以上の賛成が必要な場合(会309Ⅲ)。
  •   2) 総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めることも可)で、かつ総株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めることも可)以上の賛成が必要な場合(会309Ⅳ)。
  •   (オ) 取締役の責任(会423条「その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」)の免除等には、総株主の同意が必要ですが、この場合は必ずしも株主総会を開く必要はないことになっています。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

税理士が解説!第1回 相続後空き家住宅の譲渡所得特別控除制度の改正

2020.1.20

周辺の生活環境に悪影響を及ぼし得る空き家の数は、毎年平均して約6.4万戸のベースで増加していますが、

そのうち約4分の3は昭和56年5月31 日以前の耐震基準(いわゆる「旧耐震基準」)の下で建築されており、
また旧耐震基準の家屋の約半数は耐震性がないものと推計されています。
こうした空き家の発生を抑制することで、地域住民の生活環境への悪影響を未然に防ぐことが課題となっています。
こうした状況を踏まえ、相続により生じた空き家であって旧耐震基準の下で建築されたものに関し、

相続人が必要な耐震改修又は除却を行った上で家屋又は敷地等を売却した場合の譲渡所得について、

2016(平成28)年4月1日から(当初は2019年12月31日まで)の譲渡に対して

特別控除3,000万円を導入しましたが、適用要件が非常に厳しく複雑であるため、

まだ全国で適用申告件数は少ないようです。
しかし、年々増加の傾向にあり、特に2019年の税制改正では2019年4月1日以降の譲渡の場合、

一定の老人ホームに入所した場合でも適用があるよう緩和されたため、

今後は更に増加のペースが増えていくものと予想されます。
さらに2023年12月31日までの譲渡に延長されました。

(1)譲渡所得金額の計算(空き家住宅を譲渡したのみ)
個人が不動産を譲渡した場合、下記の手順で課税される譲渡所得金額を計算します。
譲渡所得の金額は、
①譲渡収入金額-②取得費-③譲渡費用=④譲渡益
④譲渡益-⑤相続税の取得費加算=⑦譲渡所得
④譲渡益-⑥特別控除額=⑦譲渡所得
※⑤又は⑥どちらか多い方を選択
⑦譲渡所得×(所得税率+住民税率)=譲渡所得税額の順序で計算します。

(2)制度の概要
相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人

(相続人でない包括受遺者である個人を含みます。)が、

2016年4月1日から2023年12月31日までの間に、

その取得をした被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等について、

一定の要件を満たす譲渡をした場合には、居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、

居住用財産の譲渡をした場合の3,000万円特別控除を適用できることとされました。

① 譲渡対価( 売却代金) 例9千万円
②取得費
(原価/?⇨5%等)+
③譲渡費用(仲介料等)
=例1千万円
④=①-②-③= 本来の( 譲渡益)8千万円
所有期間5年超の場合
譲渡税合計④ × 税率合計20.315%
=16,252,000円
    措置法39①⇨ ⑤ 相続税の取得費加算
※申告期限後3年以内譲渡
④-⑤ と( ④-⑥ )の内
どちらか少ない金額が
⑥ 課税譲渡所得金額
※⑤と⑥
どちらか選択
    措置法35③⇨ ⑥ 3千万円控除

⑥の節税効果最大6,094,500円(一人につき)

上記の特例を適用するためには下記の要件を満たすことが必要です。

『要件1』(建築日)
・昭和56年5月31日迄に建設着手していること
原則登記事項証明書の表示登記欄で確認してください。不明の場合は下記の書類
・確認済証(昭和56年5月31日以前に交付されたもの)
・検査済証(検査済証に記載された確認済証交付年月日が昭和56年5月31 日以前であるもの)
・建築に関する請負契約書
『要件2』(相続開始日)
2013年1月2日~ 2023年12月31日に限定されます。
『要件3』(譲渡期間)
・相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡
・かつ、2016年4月1日から2023年12月31日までに譲渡
『要件4』(相続開始前居住要件)
お亡くなりになられた方が一人で居住(2019年4月1日からの譲渡では、一定老人ホーム等も可能)
『要件5』(相続後未利用)⇨死亡後譲渡するまで空家(又は空地)の未使用状態
『要件6』❶耐震リフオーム⇨耐震証明書の付いた家屋と敷地を譲渡
又は
『要件7』❷家屋の取壊し⇨等敷地のみ譲渡
※取り壊し費用は譲渡費用
『要件8』譲渡対価が1億円以下
※他にもいくつかの要件がありますが紙面の関係で割愛させていただきます。

筆者紹介

税理士

高橋 安志 税理士法人 安心資産税会計 社長 一般社団法人 安心相続相談センター 理事

経 歴
昭和26年 山形県大石田町生まれ 中央大学商学部卒業 [取材] 日本経済新聞、朝日新聞、週刊新潮、週刊ダイヤモンド、 サンデー毎日などに相続専門税理士として取材記事多数寄稿 [著書] 「小規模宅地の特例の活用」など著書累計27冊(2019年現在) [TV関係] ・テレビ埼玉・千葉テレビ・テレビ神奈川のマチコミ(水)という番組で準レギュラー生出演 ・TVCM 放映:月曜 TBSTV 5:30~ (あさちゃん)、木曜 テレビ埼玉 22:00~ (ゴルフ番組)、日曜 テレビ埼玉 6:00~ (ゴルフ番組)

セミナーのご案内

相続用語集

まどかバックナンバー

該当記事がありません。

当社アクセスマップ

このページの先頭に戻る