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会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その14)

2022.4.1

今回は、「特例措置」を受ける適用要件(贈与税・相続税を「0」にするため)について説明します。

 

  1. 1非上場株式等の「先代経営者からの贈与」(「第一種特例贈与」)に係る贈与税の納税猶予を受けるための「特例適用要件」(「第一種認定」)は、以下の通り、形式的事項が多いのですが、詳細なので専門家に相談してください。

 

① 対象会社の要件

    1. (ア) 対象会社は,中小企業者(「円滑化法第2」)に該当する非上場株式会社又は持分会社であること(会社法上の会社)を要します。
    2.  a)株式会社、特例有限会社、合同会社、合同会社、合資会社、農業生産法人(会社の形態をとるもの)に限られるので、医療法人、税理士法人、NPO法人、風俗営業会社も適用対象にならない。
    3.  b)対象会社の要件には,認定を受ける会社本体だけでなく、その会社の「特定特別子会社」も含まれる。
    4.   ※ 「特定特別子会社」(対象会社・後継者・当該後継者の親族その他の同族関係者によって総株主議決権数の過半数を保有される会社(「特別子会社」)のうち,後継者の親族の範囲が「代表者と生計を一にする親族」に限定されるもの)
    1. (イ) 相続時において、「資産管理会社」(「資産保有型会社」、「資産運用型会社」)に該当しないこと(事業要件)を要します。
    1.  a)「資産管理会社」とは、資産に占める有価証券、不動産、現金等の「特定資産」の割合が70%以上の「資産保有型会社」や、収入に占める賃料など特定資産の運用収入の割合が75%以上の「資産運用型会社」などを指す。

    2.  b)但し、「資産管理会社」でも、常勤の従業員が5名以上で3年間以上事業を継続しているなど事業実態のある会社は除かれる

 

② 会社の要件

    1. (ア) 常時使用する従業員数が1人以上であること(従業者雇用要件)。

    2. (イ) その会社の贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度における総収入金額が、0円を超えていること(収入要件)。
    3. (ウ) 贈与時において、後継者(受贈者)以外の者が会社発行の拒否権付種類株式(いわゆる「黄金株」)を有していないこと。

 

③ 先代経営者(贈与者)の要件

    1. (ア) 先代経営者が贈与の時までのいずれかの時点で会社の代表者であったこと。
    2.  a)贈与の時までに会社の代表者を退任していること。
    3.  b)代表権の無い役員として残ることは可能である。
    1. (イ) 贈与開始直前において、先代経営者及びその同族関係者等で総議決権株数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いた者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと(筆頭株主要件)。
    2. (ウ) 既に事業承継税制の適用に係る贈与をしていないこと。

④ 後継者(受贈者)の要件

    1. (ア) 贈与の時(相続開始後5か月間)以後において代表者であること。
    2. (イ) 贈与の時に20歳以上であること

    3. (ウ) 贈与の時に役員就任から3年以上経過していること
    4. 特例適用期限の関係で、遅くても令和6年末までに役員就任の必要がある
    5. (エ) 贈与時に、後継者及びその同族関係者等の有する議決権数が、総議決権株数の50%超であること(支配株主グループ要件)。
    6.  a)贈与時において、後継者及びその同族関係者等(特別の関係がある者=先代経営者の親族など)の中で最も多くの議決権数を有すること(一つの会社で適用される者は1人)(筆頭株主要件)。
    7.  b)後継者が2人又は3人の場合には,総議決権の10%以上の議決権を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者除く)の中で最多議決権を保有すること。
    8. (オ) その他の条件
    9.  a)「特例承継計画」に記載された後継者であり、対象会社の株式等について「一般措置」の適用を受けていないこと。
    10.  b)なお、後継者は、先代経営者の親族である必要はなく、例えば会社の役員や従業員であっても構わない。

⑤ 一括贈与要件(先代経営者所有の株式を、後継者へ、全議決権の3分の2以上になるまで一括贈与すること)

    1. (ア) <後継者が1人の場合>
    2.  a)贈与する株式数は、発行済み株式総数の2/3から、後継者が贈与直前に有する株式数を差し引いた数量以上の株式数であること。
    3.  ※ 議決権の2/3以上を有すれば、会社の特別決議の議決権を保有する。
    4.  b)先代経営者と後継者の合計保有株数が発行済株式総数の2/3に満たないときは、先代経営者の持つ全株式数を贈与する。
    5.  c)先代経営者は、同じ後継者に対し、同一年に2回贈与することも、また次の年以降に贈与することもできない。
    6. (イ) <後継者が2人または3人の場合>
    7.  a)贈与後の後継者の保有株式数が発行済み株式総数の1/10以上となること
    8.  b)贈与後の先代経営者の保有株式数が後継者の株式数より少なくすること。
    9.  c)複数の株主から「第二種特例贈与」(次回説明します。)があれば、これも「一括贈与要件」の適用対象となる(前回「その13」【Ⅱ】1 (2)  (ウ) b) 参照)。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その13)

2022.3.10

18. 前回に引き続いて、「特例措置」の「都道府県知事の認定」の要件等につき説明します。

  やや複雑ではありますが、贈与税・相続税を「0」にする方法ですので、次回以降も含めてお付き合いください。

  「特例措置」に関心ある方は、専門家にご相談ください。

 

 【Ⅱ】 「新事業承継税制」(「特例措置」)には「法人版」と「個人版」とがあり、後継者は<法人版の場合は>非上場

     会社の株式等を、<個人版の場合は>事業用資産を、先代経営者等から贈与・相続により取得した場合に、「

     道府県知事の認定」を前提に、贈与税・相続税の納税の猶予又は免除されます。

 

 1 <法人版の「特例措置」の適用>に関する手続は、次の通りです。

  1.   (1) 「法人版事業承継税制」に「特例措置」と「一般措置」の2つの制度があります。
  2.   (2) 「特例措置」は、下記の通り、事前の計画策定等や適用期限が設けられ、適用期限を平成30年1月1日から10年間に

    限定し、納税猶予の対象株式数の制限(総株式数の3分の2まで)を撤廃して全株式とし、また納税猶予割合を

   (80%から100%に)引上げる等しました。

  •    (ア) < 「特例措置」の主な要件>は次の通りです。
  •     a)(事前の計画策定等)5年以内(平成3041日から令和5年3月31日まで)に「特例承継計画」を提出
  •     b)(適用期限)上記の10年以内(令和9年12月31日まで)の相続等・贈与等
  •     c)(対象株数)全株式 
  •     d)(納税猶予割合)100%
  •     e)(後継者)最大3人
  •     f)(雇用確保要件) 承継後5年間(平均8割の雇用維持要)につき例外がある(雇用確保要件を満たさない場合

     は、円滑化法施行規則第20条第3項に基づき、要件を満たさい理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出

     し、その確認を受ける必要がある。)

  •     g)(事業継続に困難な事由が生じた場合の免除)譲渡対価の額等に基づき再計算した猶予税額を納付し,従前の

     猶予税額との差額を免除。

  •     h)(相続時精算課税の適用)贈与者(60歳以上)から受贈者(20歳以上)へ
  •    (イ) まず令和5331日までに、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて「特例承継計画」を作成し、都道府

    県知事に提出して確認書の交付を受けます。その提出前に先代経営者が死亡した場合には、死亡後の「特例承継

    画」の提出も認められます。

  •    (ウ)  「特例承継計画」の提出後、① 令和91231日まで先代経営者が代表者を退き、② 後継者が代表者に就任

    し、③ 株式を後継者に一括で贈与します。

  •     a)適用期限は平成3011日から令和91231日までとされ、後継者が贈与・相続(遺贈を含む)により自社

     の株式等を取得することが必要です。

  •     b)贈与した年の1015日から翌年115日までに都道府県知事に認定申請をして、会社要件、後継者の要件、先

     代経営者等の要件を充足している「認定書」の交付を受けます。

     1) 先代経営者以外の株主(先代経営者の配偶者、兄弟など)から後継者への株式の贈与・相続の追随も認めら

       れます。

     2) 但し、それらの追随認定は、認定後5年間の有効期間内に申告期限が到来するものに限って受けることがで

       きます。

  •    (エ) 後継者は、翌年315日までに認定書の写し等を添付した贈与税の確定申告書を税務署へ提出し、納税が猶予され

    ます

  •    (オ) 猶予される贈与税額とその利子税額に見合う担保を国(税務署)に提供することを要します。
  •     a)担保提供を認める財産は、不動産、国債、地方債、税務署長が確実と認める有価証券、税務署長が確実と認め

     る保証人の保証等です。

  •     b)納税猶予の対象となる特例非上場株式(譲渡制限株も可)等の全部を担保提供した場合には、その「見合う担

     保」の提供があったものとみなされます

  1.   (3) 「特例経営承継期間」(5年間)は毎年、その経過後、猶予期間中は3年ごとに税務署に「継続届書」を提出し、また都

   道府県知事に一定の書類の提出を要します。

  1.   (4) その後、先代経営者が死去し相続が発生した場合に次の手続を必要とします。
  •    (ア) 死亡日から6か月を経過する日までに「免除届出書(死亡免除)」を相続税納税地の所轄税務署長に提出を要しま

    す。

  •    (イ) 相続開始の日から8か月以内都道府県知事に「贈与から相続」への切替の申請をします。
  •    (ウ) 相続開始日から10か月以内に相続税の納税猶予及び免除の特例を受ける旨の相続税申告書と一定の書類を税務署

    に提出します。この時も、猶予される相続額及び利子税額に見合う担保提供が必要となります。

  •    (エ) この時点で猶予されていた贈与税が免除され,相続税の猶予が始まります。
  1.   (5) 後記の通り、先代経営者は相続発生時点で役員であること、後継者は相続開始の直前に役員であり、相続開始から5

   か月後に代表者であることを必要とします。

 

 2 「個人版事業承継税制」は、平成31年度税制改正で、個人事業者の事業承継を促進するため、10年間限定で多様な事

  業用資産の承継に係る相続税・贈与税を100%納税猶予する制度として創設されました。

  1.   (1) 青色申告(正規の簿記の原則による)をする事業(不動産貸付事業等を除く)を行っている先代経営者から、

   後継者が円滑化法の認定を受け、個人の事業用資産を贈与又は相続等により取得した場合に、一定の要件のもとに

   贈与税・相続税の猶予と、後継者の死亡等によりその免除を受けることができます。

  1.   (2) 円滑化法の認定等を受けるには、平成3141日から令和6331日までに都道府県知事に「個人事業承継計画

   を提出し、確認を必要とします。

  1.   (3) 平成31年1月1日から令和10年12月31日までの10年間に、贈与・相続(遺贈を含む)により事業用資産を取得するこ

   とが必要です。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その12)

2022.1.4

17. 今回から、先代経営者から後継者に自社株式(議決権に制限のない非上場株式)を移転する場合に適用される贈与・

  相続の納税猶予・免除に関する事業承継のための新しい税制「特例措置」)を取り上げます。

 

 【Ⅰ】「中小企業経営承継円滑化法」(「円滑化法」)の都道府県知事の認定について

 

 1 非上場株式の移転に納税猶予・免除の「特例措置」の適用を受ける場合,その前提として,「円滑化法」の都道府県

  知事の認定等、一定の要件を満たす必要があります

  1.   (1) 平成30(2018)年度改正による「新しい事業承継税制」(「特例措置」)の適用を受けるためには、平成30年

  (2018年)4月1日から令和5年(2023年)3月31日までに、「特例承継計画」を都道府県知事に提出して認定を受け

   る必要があります。この提出がないと「一般措置」の適用になります。

  •    (ア) 従来の事業承継税制に対し、「新しい事業承継税制」は「特例措置」を創設し、令和9年12月31日までの10年間

    に限り、贈与税・相続税が100%猶予・免除され、また「雇用保持の要件」が緩和され、事業者にとって利用し易

    くなりました。

  •    (イ) 従前の「一般措置」(贈与:100% 相続:80%の納付猶予)は、承継後5年間事業を継続できなければ承継時の株

    価で贈与・相続税を納税する必要があったので、経営者は従前の事業承継税制に不安を感じていました。

  •    (ウ) しかし、「特例措置」では、経営状況の悪化や正当な理由があれば、相続(贈与)の税額等を再計算し、再計算

    した税額と直前配当等の金額との合計額が、当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除されることと

    なりました。

  1.   (2) 「特例措置」を受けるための手続は、①「特例承継計画」の作成・提出・確認、② 株式の贈与・相続、③ 認定申

   請、④税務申告です。

  •    (ア)「特例承継計画」は、「認定経営革新等支援機関」の支援を受けて「特例承継計画」を策定・提出し、都道府県知

    事の確認を受ける必要があります。

  •    (イ) その記載事項は、① 会社(特例認定を受ける事業者の名称等、資本金額等、常時使用する従業員数)、② 特例代

    表者(保有株式の承継予定の代表者の氏名、代表権の有無)、③ 特例後継者(②から株式承継予定の後継者氏名

   (最大3名まで))、④ 株式等を取得するまでの経営の計画(株式承継の予定時期、経営上の課題、当該課題への対

    処方針など)、⑥ 特例後継者の株式等承継後5年間の経営計画、⑦ 認定経営革新等支援機関の名称(国から認定さ

    れた認会計士・税理士・弁護士の専門家や金融機関・商工会議所等)及び所見等です。

  •    (ウ) 変更があった時には「特例承継計画の変更確認申請書」を提出して、確認を受けることができます。
  1.   (3) この適用には一定の条件というやや難しいハードルがあるので、適用を希望しない経営者もおられるかも知れませ

   んが、新税制の概略を知っておくことは事業承継を考える上で大いに役に立つ筈です。

 

 2 非上場株式(議決権に制限のない自社株式)の納税猶予・免除の「特例措置」の適用ついて、「贈与税猶予・免除」

  と「相続税猶予・免除」の仕組みを見ておきます。

  1.   (1) 「事業承継税制」の仕組みは、一定の要件を満たす間は、株式等の移転にかかる贈与税・相続税を猶予し、二代続

   けて承継すると納税が免除されるものです。

  •    (ア) 後継者が先代経営者から贈与された時、株式等の贈与税の納税猶予を受けます
  •    (イ) <その後、先代経営者が死亡すると>、猶予されていた受贈株式等の贈与税の納付が免除されこの時点で受贈

    株式等の相続税の納付が猶予されるのです

  •     a)その相続時に、受贈株式等は相続財産とみなされます
  •     b)みなし相続財産は、他の相続財産に加算されて相続税額が算出され、そのうちのみなし相続財産分の税額が猶

     されます。

  1.   (2) 次に、<相続税の納税猶予を受けた後継者(二代目)が三代目後継者に一括贈与を行った場合>は、三代目は贈与

   税の猶予を受けられ、この時点で、二代目は上記の猶予された相続税が免除されることになります。

   但し、この仕組みに従わず、贈与税の納税猶予中の二代目が、先代経営者の存命中に、三代目に一括贈与すること

   はできません

  1.   (3) 「一定の要件」とは、概略、① 同族会社において、後継者が先代経営者から事業承継による自社株の一括贈与や相

   続で取得し、② その後5年間経営を継続(同族会社の維持)し、③ 更に5年経過後も株式を保有し続けるなどと言

   うものです。

  •    (ア) 上記要件を満たせば贈与税や相続税の納税猶予を受け、贈与者・後継者の死亡に伴いその者については最終的に

    納税が免除されるのです。

  •    (イ) ただ、それが終着点ではなく、このように贈与税の猶予・免除、相続税の猶予・免除が繰り返されて行くので

    す。

  •    (ウ) 事業承継の途中で株式の売却など、上記②・③の要件を満たさなくなり、同族支配がなくなると、納税猶予が打

    ち切られ利子税を合わせて納税しなければならないので注意を要します。

  •    (エ) 事業承継税制において、後継者が非上場株式等を継続保有し、代表権を有していなければならない期間を「特例

    経営承継期間」と言います。

  1.   (4) 以上の通り、「贈与税猶予」と「相続税猶予」は、一旦適用すると後戻りできないので、目先の課税上のメリット

   だけでなく、同族会社の後継者の人材確保やこの先の経営方針を熟慮し、制度活用による経済的得失等を慎重に検

   討するのが大事です。

  •    (ア) 自社株の評価額が低く相続税額が高額にならず、会社の納税資金に問題がなく将来の会社経営に対する自由な判

    断を確保したいときは、適用を控えるべきです。

  •    (イ) また、将来、会社を譲渡する可能性がある場合、また相続した自社株を「発行会社への譲渡」(金庫株)する場

    合は、上記猶予制度を利用すべきではありません

  1.   (5) この適用に当たっては、専門家によくよく相談し、検討することが大事です。

   

次回は「新事業承継税制」の適用を受ける手続について説明します。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その11)

2021.11.1

16. 信託の課税関係

  1.  (1)信託における課税には、原則的に優遇税制がなく、信託法は、税金対策としては利用できないので注意を要します。但
  2.     し、特定障害者等に対する贈与税の非課税制度があります。
  •    (ア) 新たに信託を設定した場合、受益者が適正な対価を負担することなく受益権を取得した場合には、受益者に贈与税
  •      や相続税の負担が発生します。
  •    (イ) そこで、信託を事業承継に活用する場合には後継者や受益者の納税資金負担も考慮に入れておく必要があります。

 

  1.  (2)信託における税法上の基本的な考え方は、信託財産の運用・管理・処分によって生じた所得を含めて、信託財産から発
  2.    生する収益や費用は、原則として受益者に帰属する所得とみなされ、次の通り課税されます(法人税法12Ⅰ)。
  •    (ア) 委託者が受益者である自益信託では、依然受益者(委託者)が信託財産を有しているとみなされ、信託財産から生
  •     じる収益に対して納税する(法人税法12Ⅰ,所得税法13Ⅰ,消費税14Ⅰ)。
  •    (イ) 新たに受益者が生じる他益信託では、信託契約成立時に受益権の贈与が行われたとみなされ、受益者に贈与税が課
  •     税される。
  •    (ウ) 信託において、委託者から受託者へ名義が移転するが、一般的な資産の譲渡や取得とはみなされず、課税が発生し
  •     ない。
  •    (エ) 但し、集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託等又は法人課税信託の信託財産に属する資産並びに当該信託
  •     財産に帰せられる収益及び費用については、この限りでない(法人税法12Ⅰ但書)。

 

  1.  (3)他益信託における課税関係について見ておきましょう。
  •    (ア) 信託課税では、受益者が財産(負債を含む)を有しているとみなされ、受託者は、信託財産に関して所有権の帰属
  •     関係を有しないとされる。
  •     a)受託者はいわば導管に過ぎないものとみなされ、これを「導管課税」、「パス・スルー課税」と呼ばれている。
  •     b)そのため、<受益者>は、権利はあるが、受益が未だ帰属していない場合にも課税がなされ、また、元本受益権を
  •       取得していない収益受益者が、信託財産の全部の価格を取得したとして取り扱われることもある。これは、課税逃
  •       れを防ぐ対策によるため「投網を掛ける課税」ともいわれる。
  •     c)税法上、<受益者が存在しないとされる信託のよう場合>は、受託者に課税されることになる。
  •    (イ) 例えば、父親が子を受益者として信託を設定した場合について考えて見よう。
  •     a)信託の効力が生じた時点で、信託財産の贈与があったとみなされ、贈与税が課税される。
  •     b)死因贈与による場合は、受益権の遺贈がなされたとみなされ、相続税の対象となる
  •    (ウ) 「生前信託」は、死後に発生する贈与契約であるために、死因贈与とみなされ相続税法上は遺贈と同じ扱いを受
  •      ける
  •    (エ) 「遺言信託」は、遺贈に準じたものとみなされ、相続税法が適用される。
  •    (オ) 「受益者連続型信託」の課税関係(相続法9の3、相続税法施行令1の8)は次の通りとなる。
  •     a)「前の受益者」から「後の受益者」に贈られ、民法上の「後継ぎ遺贈」とみなされ、相続税法が適用される。
  •     b)受益者は、「財産の所有者」にはならず、「財産の利用者」としての立場を取得するが、税法上は、それぞれの受
  •      益者には期間の制限等の権利の制約はないものとみなされる
  •      1) この信託には、この期間の制限等の権利の制約がついていないとみなされ、下記の制約が付加される。
  •      2) 期間の制限があり、「妻が生きている間に限って」とされる。
  •      3) 権利の制約は、「マンションを収益と元本に分ける」ことになる。
  •     c)例えば、「受益者連続型信託」でマンションを信託財産とし、1人目の受益者を妻、2人目の受益者を長男と指定
  •       すると、① 夫が亡くなると、マンションの収益(家賃と居住)に関する権利が妻に贈られ、② 妻が亡くなると、
  •       その権利が長男に贈られ、同時に最終受益者として、マンションの元本(所有権)に関する権利が移転すると設定
  •       された場合を考えてみる。
  •      1)「受益者連続型信託」の税法上の特例は、「マンションを収益と元本に分ける」ものとし、妻には「収益に関する
  •       受益権」のみが贈られているが、税法上は「収益+元本に関する受益権」を贈られたとみなされ、相続税法が課税
  •       され、かなり大きな負担が生じる
  •      2) 次いで、長男は妻が亡くなると、妻から「収益に関する受益権」を取得し」、妻と同様に「収益と元本に関する
  •       受益権」に対する相続税を支払う
  •    (カ) 受益者間で受益権が移転する場合に、適正な対価を負担していなければ、贈与とみなされ、死亡によるときは、遺
  •      贈とみなされる。

 

  1.  (4)印紙税は、信託契約書1通につき、200円となります。

 

  1.  (5)登録免許税及び不動産取得税は、次の通りとなります。
  •    (ア) 不動産信託の所有権移転登記
  •     a)委託者から受託者への名義変更 固定資産税評価額の4/1000
  •     b)売買契約の名義変更      固定資産税評価額の20/1000
  •    (イ) 不動産取得税は、信託による所有権移転の場合は非課税で、売買契約、贈与契約等の所有権移転の場合は、固定資
  •     産税評価額の40/1000となる。
  •    (ウ) 受益権の売買における受益者変更登記は、不動産1個につき1,000円である

 

  1.  (6)信託の課税関係については、専門家にご相談下さい。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

「生命保険契約照会制度」がはじまりました

2021.10.19

今回は2021年7月からはじまった「生命保険契約照会制度」についてお話しします。

 

■何がどれくらい?財産状況が分からないご相続で起きること

皆さんは将来のご相続をふまえ、ご家族に財産状況を伝えていますか?ご相続が発生した際にご家族が財産を把握しておらず、遺言書やエンディングノートといったものは見当たらない、財産が分かる書類の保管場所も分からないといったケースは意外と多いです。残されたご家族は、家の中に金融機関や証券会社、保険会社からの郵便物といった、手がかりとなる書類がないか探す作業からはじめることになります。

 

相続税の申告が必要な場合は期限もありますので、探す作業に時間がかかり手続きになかなか着手できないという事態は避けたいところです。また生命保険については、証券等が見つからずに保険金を受け取り損ねることもあり得るでしょう。

 

■「生命保険契約照会制度」では何ができる?
今回始まった「生命保険契約照会制度」では、生命保険協会に照会をかけると、生命保険各社の契約有無の回答をまとめてもらうことができます。利用料は1回の照会あたり3,000円です。

(一般社団法人生命保険協会「生命保険契約照会制度」ポスターより抜粋)

 

■注意したいのは、照会できるのは亡くなった方名義の契約に限られること

例えば保険料は亡くなった親が支払っていたけれど、保険の契約者は子供であった場合。今回の制度で照会できるのは亡くなられた方名義の契約が対象ですので、子供名義の契約は照会できません。制度利用によっても契約の存在が知られないままとなってしまいます。

 

■作っておきたい財産のリスト

いくら便利な制度ができてもなかなか万能とはいきませんので、やはり相続の準備は大切です。財産のリストを作成したうえで、預貯金口座をまとめたり、株式や投資信託は程々にしたりといった財産の整理もしておきたいですね。

(財産リスト作成のポイント)

①何がどれくらいあるのか、ご家族が分かるようにしておくことが大切

②申告期限がある相続税の申告が必要なのか確認

③財産リストができたら、遺言書の作成もしておきましょう

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その10)

2021.9.2

  1. 15. 会社の事業承継において、(その4)の9の(4)で「「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与、売買、相続などにより移転させます」の内、今回は前回の「信託」に関連して「事業承継信託」を取り上げます。

    1. (5) 「事業承継信託」

      • (ア) この種の信託の目的は、多くは非上場会社(個人会社)が会社経営を長期に安定して継続させるために、会社の株式の相続等による分散を防止することにあり、この信託において要になる信託財産は「株式」です。
      • (イ) しかし、個人事業主の場合は、事業の基盤となる個人所有の不動産、重要な動産等を確実に後継者に引き継がせるために後記の対応を必要とします。
      •  a) 委託者は、「受託者」ら他の信託当事者と信託行為の内容を確認・検討し、その結果を合意書とし、これを公正証書とするか公証人の認証を受けておきます。
      •  b) 金融機関等からの債務を信託財産とする場合は、「受託者」が「事業信託」において、後記の通り「信託財産責任負担債務」として引き受けることを理解しておく必要があります。
      • (ウ) 高齢となった会社のオーナーは、信託を設定して、事業の承継者の受託者に株式や事業用不動産等を移転し、その管理運用を委ねながら自らに一定の権限を留保する信託の活用を考えます。
      •  a) 全財産・権限を渡さずに、株式の議決権を留保し、役員等の地位を確保する。
      •  b) 委託者あるいは委託者が指定した指図権者の指図により、受託者が株式の議決権を行使する。
      •  c) 委託者が配当金等を受領する。
      • (エ) 次期の事業承継者は決定しているが、一定の時期に他の特定者(直系卑属など)に事業承継者を変更したい場合は、前回の「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の活用を検討します。
      • (オ) 高齢となった会社のオーナーが事業承継者を決めていない場合
      •  a) 後継者候補が未成年であるとか、他の職業に就いていて直ぐに後継者を受け難い場合などや、経営者に直系卑属が無く、親族などから後継者を選定する場合は、承継取得できるまでの信託とします。
      •  b) その時は受託者として、一般社団法人を置くようにします。
    2. (6) 「事業信託」とは、個人又は法人が営む特定の事業を信託の対象とするものです。
      • (ア) 例えば、倉庫業を営むオーナーが、長男が会社員なので、事業の後継者を長男の子(孫)A又はBにしたいが、未だ幼く、適性・能力・意欲などが判らないので、「事業信託」を活用し、自己の死後は事業の片腕となっている自分の弟を事業の「受託者」とし、同人らを「事業承継指定権者」(残余財産に関する受益権者指定権者)にして、「受益者」とするA・Bが成人した時点で適任者1名を選任し、これを残余財産受益者(法182Ⅰ①)として、事業を承継させるような場合です。
      •  a) この信託では、「受託者」に対し、倉庫、事務所、敷地、車両、売掛金・営業資金、借入金・取引上の買掛金などの債務、従業員との雇用関係、得意先との契約関係、その他の機械設備など事業用財産のすべてを移転して承継させる。
      •  b) 「受託者」は、当初の受益者A、Bに対し、事業の収益からその一部を給付し、孫達の生活資金を確保し、その成長を待つ。
      •  c) 「残余財産受益者」(法182Ⅰ①)とは、「受益者としての権利を現に有する者」(例えば「残余財産の帰属」に規定する残余財産受益者)である。停止条件付で信託財産の受給権を有する者、「委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託」に規定する委託者死亡前の受益者」等は含まれない。
      • (イ) 「事業信託」は、信託法が信託行為の定めにより「信託財産責任負担債務」として債務引受けをできるとしたので(法21Ⅰ③)、可能となりました。信託行為の内容は、事業を包括して信託すると言った簡潔な条項にはできません。
      •  a) 「事業信託」は、「特定の事業」を信託の対象とし、法律的に積極財産に対する信託の設定と消極財産に対する債務の引受けからなり、その複合的な集合体について信託行為を定めることにより、実質的に委託者の事業自体を信託した状態を創出する。
      •  b) 信託行為では、積極財産及び消極財産に関すること、これらに関する取引上の地位や従業員の雇用関係の地位などにつき個別的に条項を設け、移転承継の関係や会計処理等を明らかにする必要がある。
      •  c) 「信託財産責任負担債務」とは、「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」である(信託法21Ⅰ)。
      • (ウ) 「事業信託」は、個人事業や家族型企業における特定の事業を信託の対象とする家族信託の性質を有し、これを「遺言」で行うことは難しいと思われます。
      • (エ) 「事業信託」をする場合は、専門家に相談し丁寧な検討を必要とします。
    3. (7) 信託の課税関係について税制上の優遇はありません。
      • (ア) 新たに信託の設定を行った場合、受益者が適正な対価を負担することなく受益権を取得した場合には、受益者に贈与税や相続税の負担が発生します。
      • (イ) 信託を事業承継に活用する場合には、後継者や受益者の納税資金負担も考慮に入れておく必要があります。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その9)

2021.7.1

  1. 14. 会社の事業承継において、(その4)の9の(4)で「「自社株」を後継者に集中させるためには、贈与、売買、相続などにより移転させます」の内、今回は前回の「遺言」に関連して「信託」を取り上げます。

    1. (1) 相続財産の多くが自社株である場合の事業承継の対策として、「自社株式」の「信託」を考えてみましょう。

      • (ア) 今回は、事業承継対策に信託を活用しようとするもので、活用のメリットは信託財産が遺産分割協議の対象とならず相続トラブルの発生を抑えられるようですが、
      • (イ) 遺言では、後継者に自社株を相続させた場合に、他の相続人から遺留分侵害額請求がなされれば、自社株の集中相続の実現が困難となります。それを回避するため、二男や長女に「無議決権株式」を相続させる方法を検討しました。
      • (ウ) 矢張り「遺留分侵害額請求」の適用を免れられないこと、信託では信頼できる「受託者」を選任できることが重要となることを念頭に置いて下さい。
    2. (2) 「遺言代用信託」の活用を考えます。

      • (ア) 「遺言代用信託」は、委託者となる財産(自社株式)所有者が生前に受託者(財産を管理処分する人)に信託し、死亡時に指定済みの承継者に信託財産(受益権)を引き継ぐとする「信託契約」を設定する制度です。

      • (イ) 経営者(委託者)が、生前に自社株式を「当初は先代経営者を受益者とし、先代経営者死亡後は後継者を受益者とする。」とする信託を設定します。

        • a) 「自益信託」(委託者=受益者/信託財産の所有権は、委託者から受託者に移転する)の場合は、信託財産は受益者のために管理・運用され、信託財産から生じる収益は受益者が受け取り、その実質的な所有者は受益者となる。
        •  1) 「自益信託」の設定時は、信託財産の実質的な所有者は変わっていないので、贈与税などは課税されないが、後継者が信託財産を承継した場合は、相続税の対象となる。
        •  2) 相続人が複数存在し、後継者以外の相続人も受益者に含める場合は、後継者のみに議決権の行使の指図権を付与すると定めるようにする。
        • b) これにより、委託者は生存中は従前通り自ら受益者であるが、亡くなった時に受益権(自社株式)を指定承継者に承継させるので、遺言によって自社株式を遺贈したのと同様に「遺言代用」機能を発揮させることができます。
        •  1) 遺言代用信託で財産管理を受託者に任せることができれば、受益権の承継者を自ら財産管理を行うことが難しい障害者・持病のある人・判断能力の低い人にすることも可能になります。
        •  2) 残された遺族の生活上の不安を和らげたい人にとっては、遺言とは違った局面で利用できるし、親族関係が複雑な場合には、資産承継の道筋を決めておくこともできます。
        •  3) 相続人同士の争いを防ぎ、特定の相続人の生活を安定させる方法を予め定めておくためにも利用できます。
    1. (3) 「他益信託」(委託者≠受益者/委託者とは別の人が受益者になる信託)の活用も検討して置くべきでしょう。
      • (ア) 「他益信託」の場合は、経営者(委託者)が生前に自社株式を対象に信託を設定し、信託契約において「後継者を受益者とするが、議決権の行使の指図権は委託者が保持する。」と定めることもできますが、受益者に対して贈与税が課税されます。
      • (イ) これにより、先代経営者が議決権を保持しつつ、後継者が自社株式に係る財産権(配当権及び残余財産分配権など)を保持すると同様の効果が得られますので、そのメリットを活用すべき場合もあるでしょう。

      (4) 「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の活用を検討しましょう。

      • (ア) 「A(経営者)が保有する株式について、Aが死亡したら二男Cへ遺贈する。その後Cが死亡した場合には、亡長男Bの子Dに遺贈する。」といった、第一次受益者(A)の受ける財産上の利益が、第二次受益者(C)、第三次受益者(D)に移転するような「後継ぎ遺贈」を希望する場合、遺言では最初の二男Cへの遺贈しか効力を認められないとされており、その有効性に問題がある。
      • (イ) そこで「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」を活用し、先代経営者(委託者)が自社株式などを対象に信託を設定し、信託契約において「後継者を受益者とし、受益者(後継者)が死亡した場合には、その受益権は消滅し、次の後継者が受益権を取得する。」と定めた信託契約を締結する。

        • a) 「受益者連続信託」とは、受益者の死亡により、その受益者の有する受益権が消滅し他の者が新たな受益権を取得する旨の定めがある信託をいう。
        • b) これにより、孫の世代の後継者まで承継の道筋を先代経営者が自己の意思で決定することができるが、それぞれの承継時の相続税課税を免れることはできない。
  2.   (5) 次回は「事業承継信託」について検討しましょう。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

法改正で変わる土地の相続 ~相続登記の義務化~

2021.5.29

相続登記の義務化についての改正案が2021年4月21日参院本会議で可決・成立し、

ニュース等でも大きな注目を集めています。
改正法は2024年までに施行される予定です。

 

具体的なルールが決まるのはこれからで、

改正法施行により影響があるのはまだ先となりますが、土地の相続が大きく変わります。

ポイントを確認しておきましょう。

 

■相続登記の義務化で何が変わる?
法改正により、相続が発生したら3年以内に相続登記(不動産の名義変更)をしなければならず、

違反した場合は10万円以下の過料の対象になります。
この期限は厳密にいうと、相続開始と不動産を相続する権利があることを知ってから3年以内です。

 

何らかの事情により相続登記ができないときのために、

相続人申告登記(仮称)という相続登記の義務を一旦免れる制度も新設されます。

 

相続登記の義務化により、実質的に遺産分割協議にも3年以内という期限ができることになります。
遺産分割協議では、他の財産についても話し合いをしないと、不動産を誰が取得するかはなかなか決まりません。
不動産がある相続には期限ができることを今から意識して準備をしておきたいですね。

 

■過去の相続も義務化の対象に
改正法の施行前に発生した相続も、相続登記の義務化の対象になるとされています。
例えば「20年前に亡くなった祖父名義のままの土地」といった、

過去に相続が起きて相続登記をしていない全てが義務化の対象になるということです。
まだ時間の余裕があると思わずに、早めに相続登記の準備を始めましょう。

 

■住所・氏名変更登記の義務化と、土地の所有権放棄制度
相続登記とともに、住所・氏名の変更登記も義務化されます。
住所や氏名に変更があった場合も、変更日から2年以内に変更の登記申請をしないと5万円以下の過料の対象です。

 

また、土地の所有権の放棄ができる制度も新設されます。
残念ながら放棄を考えている方にとっての朗報とはいえず、

放棄される土地は国が受け入れますが、「問題のない土地」であることが条件です。

 

建物がなく更地として利用できる、境界が明確で権利関係に争いがない、

土壌汚染がない等の条件を満たしている必要あり、

その土地の管理費10年分相当の負担金を納付する必要もあります。
利用にはなかなかハードルの高い制度になりそうですね。

 

今後も増加が続く見込みの所有者不明土地への対策として、

このように法整備が進められています。
相続登記がされない要因のひとつに、相続の準備不足があるでしょう。
「何となく相続の話し合いをせずに10年以上」というケースは、

話し合うと相続トラブルに発展することが多いのが実状です。

 

皆さんは遺言書を作成する等の相続の準備はされていますか?

「わが家は心配ない」とは思わず、誰にでも起こり得ることとして相続の準備をしたいですね。

今からはじめる贈与のすすめ

2021.5.6

令和3年の今年も、もうすぐ折り返しを迎えますね。

年末に向けて、今からできる相続税の対策を考えてみませんか?

 

今回お話しする子や孫への「生前贈与」は、

相続税の対策としては有効な方法のひとつです。

 

年間で110万円以内なら贈与税はかからないといった話を聞いたことはありますか?

 

贈与税は財産を貰った人が支払いますが、

贈与を受けた金額が年間で110万円以内なら贈与税はかかりません。

 

生前にとる対策の基本は、相続発生時までにできるだけ少ない負担で、

相続税がかかる財産の額を減らしておくことです。

税金の負担なく下の代へ財産をあげられるのは、大きなメリットといえますね。

 

贈与税の税率は、相続税の税率よりもかなり高く設定されていますので、

一度に多額の財産を贈与すれば税金も多くかかります。

 

そのため長い期間をかけて多くの人に少しずつ贈与を行うことで、

税金の負担を抑えながら、財産を移転することができます。

 

ただ、注意をしたいポイントが2つあります。

  1. ①相続発生前3年以内の相続人に対する贈与は相続財産に加算され、相続税の対象になります。
  2. ②贈与の内容によっては遺産分割の際に相続財産に持ち戻される場合もあり、

相続人同士で過去の贈与をめぐってトラブルになる可能性もあります。

 

「かえって多額の税金や諸費用を支払うことにならなってしまった」

「良かれと思った贈与が、相続発生後の争いの種になってしまった」

といった事態にならないように、よく検討する必要がありますね。

 

相続手続きに便利!「法定相続情報制度」をご存知ですか?

2021.4.1

相続手続きでは、お亡くなりになられた方の戸籍謄本等の束を、

銀行や証券会社などの相続手続きが必要な先に、何度も出し直す必要があります。

 

窓口での相続人の確認には時間がかかりますが、現在のコロナ禍では尚更のようで、

なかなかスムーズに手続きを終えられないようです。

 

戸籍謄本等の取得には意外と費用もかかりますので、コスト面のデメリットもあります。

 

そこで活用いただきたいのが、法定相続情報証明制度です。

 

登記所(法務局)に戸除籍謄本等と相続関係を一覧に表した図を提出すれば、

登記官からその一覧図に認証文を付した写しを『無料』で交付してもらえます。

 

その後の相続手続きは、この「法定相続情報一覧図の写し」を利用でき、

戸除籍謄本等の束をその都度出す必要がなくなります。

 

法定相続情報一覧図の写しは、銀行や証券会社の相続手続きだけでなく、

相続登記(不動産の名義書換)や相続税申告にも利用できます。

記載が必要な事項がそれぞれありますので、

作成前には各専門家と相談してから手配をすると良いですね。

 

 

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