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知っておきたい生前贈与の基本と活用② ~見落としがちな贈与税がかかるケース~

2022.9.22

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

今回は引き続き贈与のお話です。贈与と意識せずに行ったものや、贈与ではないと思っているものでも、贈与に該当し贈与税の対象となることがあります。思いがけないところで贈与税が課税されることのないように、注意したいケースをいくつかご紹介します。

 

例えば子供のローンの返済を親が代わりにしてあげる場合に、贈与にはあたらないと考える方が多いのではないでしょうか。「いつか返してくれればいいよ」、「出世払いでいいよ」と返済の予定も特に決めない場合は注意が必要です。

お金の貸し借りは返済があってこそですから、明確な返済がなければ贈与(債務免除)とみなされ、贈与税が課税対象となる可能性があります。親が行ったのはあくまで一時的な立替払いであって、贈与に該当しませんというのであれば、少額ずつでも定期的な返済が必要でしょう。税務署も親子間だからこそお金の移動について厳しくチェックする傾向にありますので、しっかり準備をしておきたいですね。

 

また、老後資金として契約されている方も多い個人年金保険についても確認しておきましょう。前提として、保険金の課税関係は「保険料負担者」・「被保険者」・「受取人」が誰かで考えます。例えば、保険料負担者と被保険者を父、受取人を子とすると生命保険金は相続税の対象となりますが、契約者が母であっても実際に保険料を負担しているのは父で、被保険者が母、受取人が子の場合は父から子への贈与となり、贈与税の対象となります。なお、保険料負担者と受取人が同じ場合は所得税がかかります。

 

個人年金については、保険料負担者と受取人が同じ下表ケース1の場合、夫が受け取った年金は雑所得として所得税と住民税がかかります。保険料負担者と受取人が異なるケース2の場合には、年金の受け取りがはじまった時点で、夫から妻へ年金を受け取る権利が贈与されたとみなされます。そのため、年金開始時点で年金受給権の権利評価額に贈与税がかかり、2年目からは所得税と住民税がかかることになります。

 

 

保険は課税関係が複雑ですので、契約前によく確認する必要があります。「生命保険金は相続税の非課税枠(法定相続人の数×500万円)があるからと契約したのに対象にならなかった」、「個人年金を受け取ったら思いがけず贈与税がかかってしまった」など、せっかくの保険の活用が無駄にならないようにしたいですね。

 

知っておきたい生前贈与の基本と活用

2022.9.15

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

皆さんもご存じの通り、平成27年の相続法改正による基礎控除額の大幅引き下げに伴い、相続税は資産家でなくとも身近な問題となっています。そのため将来の相続税をふまえた対策をご検討の方も多く、今回からは相続税対策としてご相談を受けることも多い、生前贈与のお話をしていきます。

 

贈与とは、自分(贈与者)の財産を無償で他人(受贈者)に与えることをいいます。生前に財産を渡しておくことで相続税の課税対象となる財産が減り、相続税の節税をすることができます。節税方法の中でも贈与は取り組みやすく、特に現金の贈与は比較的手続きが簡単ですので、将来の生活資金をふまえて余剰がある方にはおすすめをしています。このような節税効果に目が行きがちな贈与ですが、思わぬトラブルを生じさせないためには基本事項の確認が大切です。実行する前にぜひ確認をしておきましょう。

 

贈与をする際の目的は大きく2つにわけられ、ひとつは「あげたい」という意思の実現、もうひとつは冒頭でもお話しした相続税の「節税」です。まずは自分の財産を他の人に「あげる」点では同じ「贈与」と「相続」の違いについて、親から子供に財産を渡す場合を例にみてみましょう。

 

贈与は、生前に親の意思で必要な時やあげたい時に何回でも渡すことができます。渡す相手は法定相続人でなくてもよいので、子供だけでなく孫に渡すこともできます。贈与のたびに「ありがとう」と感謝され、子供や孫の喜ぶ顔が見られるのも嬉しいポイントでしょう。

それに対して相続は、死亡時に一度だけ、さらに法定相続人にだけ財産を渡すことができます。相続の場においては、贈与と異なり感謝よりも権利主張になりがちなうえ、必ずしも親の意思が反映されるとは限りません。そのような事態を避け、親の意思を実現しようとするときには、遺言書の出番となります。遺言書によれば法定相続人以外の例えば孫にも財産を譲り渡すこともできますが、その際には相続税の2割加算にも注意しましょう。

贈与は、相続時の問題を解消する遺言書と組み合わせることによってさらにその効果を高めることができます。贈与とともに誰に何を譲り渡すのかを遺言書を作成しておくことで、残されるご家族が困ることのないよう準備をしておきたいですね。

 

税金の面では、贈与では基礎控除額110万円を超えると贈与税の対象となり、特例による非課税枠もあります。相続では相続財産が基礎控除額を超えると、相続税の対象になります。贈与税の特例については次回以降に詳しくお話しします。

親世代の相続の準備 ~はじめに考えることは何?~

2022.9.8

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

親世代が相続の準備をはじめるのに、まず考えるべきことは何だと思いますか?

・相続で揉め事にならない様に、バランス良く遺産を分けること

・相続税がかかりそうなので、なるべく税金の負担を抑える

・家の土地を子や孫たちにも守ってもらうこと 等々

考えなければいけないことは色々ありますし、どれも大切なことですよね。ただ親世代のご夫婦がともに健在の場合、まず考えることは残される配偶者の今後の生活資金に不安がないかでしょう。不安があるならその対策、次に遺産分けのバランスや相続税等を考えることをお勧めします。

 

■配偶者が必要な生活資金と、施設入所時の費用

総務省の家計調査によると、65歳以上の女性の単身世帯の消費支出は月平均で約14万円。例えば夫が亡くなった時に妻は遺族年金を受け取ることができますが、生活費は預貯金を取り崩しながら工面される方が多いでしょう。健康に長生きされるのは喜ばしいことですが、将来の生活の不安を軽くするためにも、配偶者へ資金を残しておきたいところです。

生活資金以外にも考えなくてはいけないのが、高齢者向け施設に入所することになった時の費用です。配偶者が亡くなった後に、自宅で一人暮らしとなる方も多いでしょう。身体が弱ったときだけではなく、怪我をきっかけに一人での生活が難しくなり、施設入所が必要になる場合もあります。

高齢者向け施設は様々あり、かかる費用の幅も広いですが、多めに見積もっておくことをお勧めします。もし施設費用を手元にある預貯金でまかなうことが難しいなら、入所時にはご自宅を売却して資金を捻出するのも一案です。

 

■配偶者へ預貯金を移した後の落とし穴

残される配偶者のためにできることは、まずは遺言書を作成しておくことです。生前に夫の預貯金を妻の口座に移しているご夫婦もいますが、そのお金が贈与だったのか、贈与税は支払っていたのか、それとも預けたお金だったのか貸したお金だったのか等、あとあと問題になることが多いのでお勧めできません。遺言を作成する他にも、状況によって正しく贈与を行ったり生命保険を活用するのも良いでしょう。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その19)

2022.9.1

今回は、前回に引き続き「円滑化法」(民法の特例)の「事業承継者の要件」等について話します。該当要件等の話は面白味がありませんが、(その18)に戻って読み直し「民法の遺留分に関する特例」の重要性を再確認してから、その要件に目を通してみましょう。

 

  1. 1 適用対象となる事業承継者(主体)に関する要件については「その14」でも説明していますので参照下さい。

    1. (1) 特例中小会社」(「特例中小企業者」)の要件(法3Ⅰ)。

      • (ア) 中小企業者(会社又は個人)(法2)の事業承継だけに限ります。
      • (イ) 3年以上継続して事業を行っていること(施行規則2)。
      • (ウ) <会社の場合>は、先代経営者が後継者に生前贈与等により株式を承継させた場合に適用対象となります。
      • (エ) <個人事業者の場合>は、後継者が先代経営者から贈与等によって取得した事業用資産の承継(①土地、②建物、③減価償却資産)が対象となります。
    2. (2) 「旧代表者」(先代経営者、被相続人)の要件(法3Ⅱ)

      • (ア) 特例中小企業者の元代表者又は現代表者であること。

      • (イ) 推定相続人のうちの1人に対して株式等を贈与したこと
    3. (3) 「後継者」(推定相続人)の要件(法3Ⅲ)
      • (ア) 後継者は、特例の適用を受ける時点で特例中小企業者の代表者であること。

      • (イ) 旧代表者から特例中小企業の株式等を贈与により取得した者であること。
        (当該贈与を受けた者から当該株式等を相続、遺贈、贈与により取得した者でも良い)
      • (ウ) 株式の贈与により、総株主の議決権の過半数を有すること(議決権要件の充足)
        • a) 贈与を受ける前の時点で、議決権の過半数の株式等を保有していないこと。
        • b) 旧代表者が総株主全部事項無議決権株式の保有者を除く)。又は総社員(特例合意対象株式等を含めて)の議決権の過半数を有すること。
  2. 2 特例合意の内容は、次の通りです。

    1. (1) 特例は親族内の「先代経営者から子(配偶者)への生前贈与による承継」だけを対象としており、遺言は除かれます。
      • (ア) 事業承継に不可欠な自社株式等にかかるものでなければならない。
        • a) 複数回で贈与されても1回の合意の対象とすることができる。
        • b) 贈与契約をしても株式の移転をしていない場合は適用がない。
      • (イ) 特例合意は、法の施行後のものだが、財産の贈与等は法施行前のものでも良い。
      • (ウ) 遺留分侵害額請求を事前に防止し、後継者貢献による株価上昇分を保持できる。
    2. (2) <現経営者の兄弟姉妹>や<役員従業員等が親族でない者>への承継の場合は、兄弟姉妹は遺留分権がないので「民法の特例」の適用はありません

      • (ア) 非親族への事業承継は、通常株式等の売買で行われる。
      • (イ) 株式等の「生前贈与」は、遺留分侵害額請求の対象となるが、特別受益でないので相続開始前1年間にしたものに限られ(民1044)、また、遺留分権は相続の開始の時から1年間行使しないときは時効によって消滅する(民1048)。
      • ※「特別受益」とは、相続人が被相続人から遺贈を受け、又は婚姻・養子縁組・生計の資本等として生前贈与を受けた場合の利益を言う。
      • (ウ) なお、改正民法は「遺留分侵害額請求」を遺留分に相当する金銭の支払を請求できる権利とした(民1046条)。
        • a) 改正前の遺留分減殺請求の場合、株式等が他の相続人と共有状態となったので財産の処分が困難になり、新たな紛争を引き起こし事業承継に支障が生じた。
        • b) 改正法はこの弊害を回避したが、後継者は金銭支払のために資金繰りを必要とするので、支払準備ができない時は、裁判所に金銭債務の全部又は一部について支払期限の猶予を求めることができるとされている(民1047条Ⅲ)。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

利用していない不動産を相続で手放せる?~2023年開始の「相続土地国庫帰属制度」~

2022.8.23

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

「相続時に、処分に困っている不動産を手放せないか」とのご相談を受けることが増えてきました。地方の空き家となっている実家について一番多くお聞きしますが、他にも地方の山林や別荘地、投資用に購入した土地でお悩みの方も多いです。最近は、このような不動産を2023年からはじまる「相続土地国庫帰属制度」で解決できないかとの質問も頂くようになりました。今回はこの制度の内容をお話しします。

 

■自宅から離れた空き家の実家が悩みの種

実家に誰も住む予定がないため売却や賃貸を検討しても、立地等によってはなかなか買い手や借り手も見つからず、何年も空き家のままとなることがあります。その間、定期的に様子を見に行き風を入れ手入れをし、管理をお願いするならその先への支払も必要です。お金の面では、固定資産税に加えて、建物が老朽化してくれば修繕費もかかってくるでしょう。

国土交通省「空き家所有者実態調査(2020年)」によると、空き家所有世帯の物件の取得方法を調査した結果、「相続」との回答が54.6%を占めました。手間も時間もお金もかかる空き家の管理に、どうにか手放せないかと相続のタイミングで頭を抱えるご家族は少なくありません。

 

■「相続土地国庫帰属制度」とは?

相続した空き家といった不動産の悩みを解決できるのではと関心が高まっているのが、2023年4月27日にはじまる「相続土地国庫帰属制度」です。相続において現在の民法では「欲しくない財産は相続しない、必要な財産だけ相続する」ということは認められていないので、相続したくない不動産だけ放棄することはできません。この制度を利用することで、相続等によって土地の所有権を取得した人が、法務大臣の承認を受け、その土地の所有権を放棄し国庫に帰属させることができます。処分に困っている土地を国に引き取ってもらえる制度といえるでしょう。

 

■制度利用の要件は意外と厳しい

ただ、「相続土地国庫帰属制度」の利用には次の①~⑩どれにも該当しないことが要件となり、意外とこの要件をクリアするのはハードルが高いようです。国が土地を引き受け管理するにあたり、費用や労力がかかりすぎることを防ぐ観点から「問題のない土地」であることが要件とされています。

 

①建物がある土地

②担保権等が設定されている土地

③通路等の他人が使用する土地

④土壌汚染等がある土地

⑤境界が明らかでない土地

⑥崖等がある土地

⑦工作物、車両等がある土地

⑧地下に除去しなければならないものがある土地

⑨隣地所有者等との争いがある土地

⑩その他管理や処分に過分の費用や労力が必要な土地

 

そして実際に国から承認を受けた場合には、土地管理にかかる費用の10年分相当額を納入する必要があります。不要な不動産を手放す新たな手段としての活用が期待されますが、費用負担等を含め具体的な内容の公表はこれからです。制度開始後に事例が増えていくなかで明確になることが多いと思われます。今後に注目していきたいですね。

~相続手続きに便利な「法定相続情報制度」~

2022.8.8

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

法定相続情報制度をご存知でしょうか?

相続手続では、お亡くなりになられた方の戸籍謄本等の束を、銀行や証券会社など相続手続を取り扱う窓口に何度も出し直す必要があります。代襲相続等がある場合には、窓口での相続人の確認に時間がかかり、手続きに日数を要することもあります。戸籍謄本等の取得には費用もかかり、特に改製原戸籍は高額なことが多いというデメリットもあります。

法定相続情報証明制度は、そんな面倒な手続きやコストを解消できる便利な制度です。登記所(法務局)に戸除籍謄本等と相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すれば、登記官からその一覧図に認証文を付した写しが『無料』で交付されます。その後の相続手続は、この法定相続情報一覧図の写しを利用いただくことができ、戸除籍謄本等の束をその都度出す必要がなくなります。

相続税の申告書に添付する書類にも、この法定相続情報一覧図を利用できます。ただし、次の2点が必要とされていますので、ご利用の際はご注意ください。

A.系統図方式で記載されていること

相続税の計算においては、相続人の数のほか、相続分も明らかにしなければ適正な計算ができないことから、法定相続情報一覧図の写しの中でも、被相続人と各相続人の関係まで明らかになる系統図方式で記載されたものであることが必要とされています。

B.子の続柄は、実子又は養子の別が記載されていること

相続税の計算上、相続人の数にカウントされる養子の数に制限があるため、単に「子」という表示では正確な計算はできないことから、相続税の申告書に添付する法定相続情報一覧図の写しは実子と養子の別が記載されたものであることが求められています。

(養子の場合、養子の戸籍の謄本又は抄本の添付が求められています。)

 

令和4年度税制改正大綱が決定 ~相続税・贈与税について変わるポイント~

2022.7.28

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

令和3年12月10日に、例年通りの日程で令和4年度税制改正大綱が決定し発表されました。注目されていた「相続税と贈与税の一本化」については、具体的な改正は来年度以降に持ち越し、住宅取得等資金贈与の非課税措置は2年延長となりました。それぞれの内容を確認しておきましょう。

 

■相続税と贈与税の一本化は来年度以降に持ち越し

「相続税と贈与税の一本化」は、相続税を節税するために生前贈与を活用するのが難しくなるのではとの見方もありましたが、令和4年度税制改正大綱では「本格的な検討を進める」記述にとどまり、具体的な改正は見送りとなりました。

 

「今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」(令和4年度税制改正大綱より)

 

「相続税と贈与税の一本化」がどのような内容になるかは気になるところですね。

年間110万円までなら非課税枠(基礎控除額)がある「暦年課税」制度はご存知の方も多いでしょう。この非課税枠を活用すれば、下の世代へ贈与税の負担なく資産を渡すことができます。この暦年課税制度を活用しての節税対策のやりすぎは良くないという考えから、相続税と贈与税を一体として税金を計算する仕組みへの移行が検討されているようです。

現行の暦年課税制度では、相続発生前の3年以内に行われた贈与財産は相続財産に含められ、相続税の課税対象となります。来年度以降の税制改正においては、この3年という期間を10年とするドイツ、15年とするフランスといった諸外国の制度にならい、見直されることも考えられます。

また相続時精算課税制度では、2,500万円まで贈与税がかからない非課税枠がありますが、相続の際にはこの制度を使っての贈与財産は、何年前かにかかわらずすべて相続税の課税対象となります。このように贈与財産にも相続税を課税できる相続時精算課税制度を、贈与税の原則的な計算方法とする可能性もあるようです。

 

■住宅取得等資金の贈与の非課税措置は2年延長

令和4年度税制改正大綱では資産税にかかわる項目として、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置が2年延長となり、令和5年12月31日まで適用可能となります。非課税限度額は省エネ等住宅で1,000万円、それ以外の住宅は500万円とそれぞれ500万円引き下げられ、内容についても若干の見直しがなされています。

今後の改正の可能性もふまえ、相続の準備は早めに進めておきたいですね。

 

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その18)

2022.8.1

今回から、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)の「民法の遺留分に関する特例」について話します。

 

【Ⅵ】 「民法の遺留分に関する特例」(円滑化法3条~10条)

 

  1. 1 (その12)から(その17)まで「事業承継税制」(中小企業の経営承継に伴う贈与税・相続税の納税猶予及び免除)について説明しましたが、そのほかに「円滑化法」は民法上の遺留分の問題に対応する「特例法」を整備しました(令和3年改正)。
    1. (1) 遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に対する相続できる遺産の最低保障額を言い(民法1042条1項)、遺言や生前贈与などによる相続分が遺留分を下回った場合に、多く受け取った相続人から遺留分侵害額を請求できる権利で、「遺留分侵害額請求権」と呼ばれています(令和2年の相続法改正)。
    2. (2) 生前贈与等により、事業後継者に自社株式等の事業資産を取得(相続)させたが、他の推定相続人から遺留分侵害額請求を受ければ、事業承継計画が破綻するので、それを防止するための施策として「民法の遺留分に関する特例」が設けられました。
      • (ア) 「民法の特例」を活用すると、<非上場株式>が先代経営者から後継者に贈与等される場合に、後継者及び先代経営者の推定相続人全員が合意し、<① 遺留分算定基礎財産から除外除外合意)><② 遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定固定合意)>を締結することができます。

        • a) 後継者が他の相続人との話し合いにより「除外合意」をすれば、全株式を後継者に引き継ぎその散逸を防ぐことができ、場合によっては自社株式以外の財産についての合意もすることもできます。
        • b) 「固定合意」は、相続財産の自社株式が非上場株式(未公開株式)で評価が難しく、また相続開始までに変動の可能性もあり、遺留分侵害額請求による不測の事態の発生を避けるために、その評価額を合意時に固定して置くものです。
      • (イ) 更に、株式の場合は<①>や<②>と一緒に、<③ 自社株式以外の財産に関して付随合意)>を行うこともできます。
        • a) 「付随合意」を締結することにより、後継者が先代経営者から生前贈与された自社株式以外の事業用財産(例えば、会社所在の不動産、事業用機器、現預金など)を遺留分の対象から除外したり、また、後継者以外の相続人が贈与を受けた財産を遺留分の対象から除外するなどの合意ができます。
        • b) <③>だけを単独で締結することはできません。
      •  (ウ) なお、上記の<会社経営者の株式>のほかに<個人事業者の業務用財産>についても、ほぼ同様の手続が認められていますので次回以降に説明します。
    1.  (3) 「民法の特例」は、「事業承継税制の特例」との併用が可能ですが、それぞれ要件や申請手続きなどが異なります。
      •  (ア) 「事業承継税制の特例」は、生前贈与のほか相続や遺贈でも適用できるのに対し、「民法の特例」は生前贈与に限られますが、贈与時に旧代表者が代表を退任している必要はありません。
      •  (イ) また「事業承継税制の特例」では、最大3人の後継者まで適用できるのに対し、「民法の特例」では後継者1人に限られ、また旧代表者以外からの贈与は「民法の特例」の対象とはなりません(「その15」参照)。
    2.  (4) 「民法の特例」により、「推定相続人全員の合意」で上記<①><②><③>を締結し、その合意の範囲で「遺留分侵害額請求」を適用しないようにする為には「経済産業大臣の確認」(円滑化法7)及び「家庭裁判所の許可」(同法8)を必要とします(円滑化法4Ⅰ①)。
      •  (ア) 「経済産業大臣の確認」は合意から1か月以内に中小企業庁に申請し、家庭裁判所の許可は、当該確認から1か月以内に申し立てる必要があります。
      •  (イ) なお、贈与から合意までの期間については定めがなく、10年前の贈与や数年間に及ぶ贈与についても合意は可能です。
    3.  (5) なお、「円滑化法」の「遺留分に関する民法の特例」に似た「遺留分の放棄」(民法1043条)の制度があります。
      •  (ア) 被相続人の生前でもそれぞれの相続人が家庭裁判所の許可を得れば遺留分を放棄することができ、また被相続人の死後には自由に放棄ができます。
      •  (イ) しかし「民法の特例」の場合は、相続人毎に意向が分かれることがないので「遺留分の放棄」よりも利点があると言えます。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

親世代からはじめる相続 ~円満相続の最短ルート~

2022.7.21

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

どのご家庭もいつか迎える相続ですが、相続の話題、切り出すのは親世代と子世代どちらからが良いと思いますか?個人的には、親世代から切り出すのが良いと思います。さらには円満相続への最短ルートとも思いますので、今回はその理由からお話しします。

 

■子世代から相続の話題を切り出すと起きがちなこと

相続の話題はとても繊細ですので、子世代からは触れづらいものです。話を切り出すことで、「親子関係が険悪になるかもしれない」、「財産が欲しがっていると思われるのでは」と心配をされるでしょう。しかもこのような心配をしている事態は、ちょっとした言い方次第で実際に起きてしまうようです。

「大変なことになるのは分かっていたが、親には切り出せなかった…」と、準備ができないまま相続を迎えられる方も多いです。その方々が相続を迎えるまでの経緯はよく似ていて、親世代が元気なうちは「まだ先の話なのに嫌な思いをするだろう」、親世代の体力の衰えが出てきてからは「こんな状況ではとても話せない」と考えながら、相続を迎えています。

また親世代も、子供から相続の話を振られると少なからずショックを受ける方が多いです。「相続の準備が必要とは分かっているが、自分が死ぬのを待たれているよう」と感じるようです。

このように子世代から相続の話題を切り出すと、お互いに気持ちよく相続の準備を始めるのはなかなか難しいといえます。

 

■相続は親世代が準備をはじめ、子世代と共有する

円満相続を迎えているご家族は、親世代が相続の方針を決めて対策をしています。さらに子世代と共有することで、相続後の思いがけないトラブルもないように準備をしています。

円満相続に向けて、まずは財産の洗い出しから取りかかりましょう。次に、自分亡き後の心配事が何かを洗い出します。残される家族の今後の生活に不安はないか、遺産の分け方で揉め事が起きないか、必要な方は相続税の負担や承継する事業等についても考えてみましょう。その上で、とるべき対策を講じていきます。

そしてぜひ、想いを実現する遺言書を作成しておきましょう。

 

もし対策が必要な場合には、専門家の手を借りることも考えてみてください。何が最適な対策か判断できない場合には、書籍等で十分な知識を得ても解けない、専門家の知識と経験が必要な難しい課題といえるでしょう。一緒に考えてくれる相談先を決めるのも、大切な相続の準備です。

 

早いものでもう7月、今年も半分が過ぎました。8月にはお盆を迎えます。ご家族で集まる機会にむけて、ぜひ相続について考えてみましょう。

変わってきた成年後見制度 ~成年後見人には身近な親族を~

2022.7.7

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

少し前になりますが平成31年3月18日に開催された有識者会議で、最高裁判所は成年後見人等には身近な親族を選任することが望ましいという考えを明らかにしました。後見人による財産の横領等の被害が増えたことを背景に、後見人には親族以外の第三者として専門家が選任される傾向にある中で、この見解表明はニュースでも話題になりました。

その後の成年後見制度の変化を、今年3月に最高裁判所が公開した「成年後見関係事件の概況 令和2年1月~12月」からみてみましょう。

 

■成年後見の利用は増えている

成年後見関係の申立件数は、昨年に比べて約3.5%と増加しました。ただ、急速に進む高齢化に見合う程には、成年後見制度の利用は進んでいないようです。

 

■申立動機で最も多いのは、預貯金等の管理・解約

成年後見関係の申立原因は、やはり認知症が最も多く全体の64.1%。申立の動機として最も多いのが預貯金等の管理・解約で、全体の37.1%を占めます。

今年の2月18日に全国銀行協会が発表した考えでは、認知症等による口座凍結への対応は成年後見制度の利用が原則としています。このことからも、今後も認知症等による口座凍結が成年後見制度利用の主要動機となることが見込まれます。

 

■親族は成年後見人になれる?

親族以外の専門家等が成年後見人等に選任されたものは、全体の80.3%。親族等が選任されたものは全体の19.7%にとどまりました。親族が後見人になるのは難しいように思える結果ですが、そうとも限らない様です。令和2年2月からのデータですが、成年後見人等の候補者として親族が記載されていたのはわずか23.6%。「親族が後見人になるのは難しい」という認識から、そもそも申立の際に親族を候補者として記載していないという背景があるのかもしれません。認知症による財産管理の問題には事前の対策が大切なのはもちろんですが、それぞれの制度の変化にも注視していきたいですね。

 

 

《まどか円満相続情報マガジン 令和3年冬第14号掲載》

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