さいたま市・埼玉県 相続のことなら一般社団法人埼玉県相続サポートセンター
お問合せ
048-711-9183
受付時間 / 10:00 ~ 17:30 水曜定休
お気軽にお問合せください
トップ > 最新・相続ジャーナル

最新・相続ジャーナル

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その17)

2022.7.1

今回は、前回に引き続き【Ⅳ】「非上場株式」の「①<株主区分>」の「同族株主」「同族株主以外の株主」(非同族株主)の評価方法について説明します。

 

【Ⅴ】 「同族株主」の意義、同族株主間の相続・贈与に適用される評価方法

 

  1. 1 「会社を支配する一族」とは、会社の株式の50%超を持っている一族(「同族株主グループ」)などを言い、原則的評価方式により株式の評価額を計算し、会社を支配できない「少数株主グループ」は「特例的評価方式」(配当還元方式)によります。少数株主グループにとって、株式は配当金を受け取れる価値くらいしかないのです。
  2. 「同族株主」とは、判定時におけるその会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条 (同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人または法人をいう)の有する議決権割合の合計が30%以上である場合におけるその株主とグループ構成員をいいます(評基通188(1))。

    1. (1) 一つの株主グループの議決権割合合計が50%超である場合は、他に同割合合計が30%以上のグループが存在しても、そのグループは同族株主になりません。
    2. (2) なお、上記によっても同族株主がいない場合は、15%以上のグループが同族株主等に該当することになります。
      • (ア) その割合は、議決権の割合で判定し無議決権株式は含めない)、「自己株式」は、発行済株式数(分母)から除かれる(評基通188-3)。
      • (イ) 株式の評価において<同族関係者の範囲>とされるのは、次の通りである。
      •  a)同族関係者となる個人
      •   ① 株主の親族(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族)
      •   ② 株主と事実上婚姻関係と同様の事情にある者
      •   ③ 株主等(個人に限る)の使用人
      •   ④ 株主等(個人に限る)から受ける金銭等により生計を維持している者
      •   ⑤ 上記②~④の者と生計を一にするこれらの者の親族
      •  b)同族関係者となる法人
      •   ① 株主の1人が他の会社の発行済株式の50%超を有する場合の当該他の会社(株主が個人である場合には同族関係者となる個人を含む(以下同じ))
      •   ② 株主の1人及び上記①の会社とで他の会社の発行済株式の50%超を有する場合の当該他の会社
      •   ③ 株主の1人及び上記①、②の会社とで他の会社の発行済株式の50%超を有する場合の当該他の会社
      • (ウ) <親族以外の株主から株式を買い取る場合>は、財産評価基本通達による評価額よりも低額であるときは、買い受けた同族株主に贈与税が課税されるリスクがある(相法7、相基通9-2)。
    3. (3) その他の株主は、すべて「同族株主以外の株主」(非同族株主)となります。

  3. 3 株主(同族(支配株主)、非同族)の自社株の評価方法

    1. (1) 「同族株主」(同族会社のオーナー及びその一族)と判定され、支配株主となった場合保有目的が支配権の行使)は、原則的評価方式類似業種比準方式純資産価額方式等)による評価額となります(下記の区分による(財産評価基本通達178))。

      • (ア) 例えば、1) 社長の株式を後継者の長男へ贈与する場合 2) 会長である兄の株式を、弟の社長が買い取る場合 3) 社長が従業員の株式を買い取る場合。
      • (イ) 「純資産価額方式」は、資産から負債を引いた純資産額を株式数で割って評価。
      • (ウ) 「類似業種比準方式」は、市場価格で決まる上場企業の株価を参考にして実態に見合った評価をするので、純資産価額よりも株式の価値が低い場合が多い評価引き下げの対策として、業種選択、従業員数の削減の方法がある。
    2. (2) 非同族株主少数株主、同族でない株主)の場合、例えば社長の株式を従業員や従業員持株会へ売却する場合などの評価方法は、買取人が下記の4類型に該当すれば、配当還元方式保有目的が配当の受取りで評価する。

      • (ア) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式

      • (イ) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満である者の取得した株式(評基通188(2))
      •  a)課税時期において、評価会社の役員(社長、理事長等)である者及び相続税等の法定申告期限までの間に役員となる者を除く。
      •  b)「中心的な同族株主」とは、同族株主の1人と配偶者などの近しい親族等だけで、25%以上の議決権を有する場合のその株主をいう(評基通188(2))。
      •   1) 「近しい親族等」とは、①配偶者、②直系血族、③兄弟姉妹、④1親等姻族、⑤株主の1人及び①~④までの者が同族関係者である会社を指す。
      •   2) これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合をいう。
      •  c)<取得者が中心的な同族株主に該当するか否かの判定>は、株式移動後の株数で、取得者を本人とし、各人別に1人ずつ判定する。
      • (ウ) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式(評基通188(3))

      • (エ) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く)の取得した株式(評基通188(4))

 

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

どう対応する?相続発生後の口座凍結 ~「預貯金の仮払い制度」~

2022.6.23

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

みなさんは「相続が起きると口座が凍結される」という話を聞いたことがありますか?口座が凍結されると、窓口やATMでの入出金ができなくなる他、振込や振替も制限されます。

口座は凍結されるのは金融機関が口座名義人の死亡を知ったときですが、役所から金融機関に死亡の連絡がいくわけではありません。実際に口座凍結されるのは、金融機関窓口へ相続手続きで使用する書類をもらいに行ったときなど、ご家族が死亡を伝えたときです。思いがけず口座が凍結され急ぎの支払などに困らないように、対応方法を確認しておきましょう。

 

■遺言書や遺産分割協議書で預貯金の払戻し手続きを行う

有効な遺言書があれば、遺言執行者が単独で払戻し手続きを行うことができます。遺言書がない場合には、法定相続人全員が署名捺印した遺産分割協議書と添付書類を提出して払戻し手続きを行います。ただ、遺産分けの話し合いがまとまるまでは、それなりの日数がかかるものです。万が一、話し合いがまとまらず家庭裁判所へ持ち込まれる事態となれば、払戻しができるのは数か月後、数年後となってしまうかもしれません。

 

■「預貯金の仮払い制度」を利用する

上記のように遺言書がなく遺産分割協議を経なければならない場合でも、葬儀費用や相続人の当面の生活費といった急ぎの資金に困ることがないように、新しい制度ができました。2019年7月に施行された「預貯金の仮払い制度」です。相続人全員の同意がなくても次の2つの方法で、遺産分割協議がまとまる前に預貯金の払戻しを受けることができます。

①金融機関で直接払戻しの請求をする

相続人のうちの1人が払戻し可能な額は、「相続開始時の預貯金の額×1/3×払戻しをする相続人の法定相続分」で、同一金融機関から払戻しできる額は、相続人1人につき150万円が上限です。仮払いを受けた分は、実際に相続する額から差し引かれます。

<相続人:妻、長男、次男の3人/長男が払戻しの請求をする場合>

A銀行1200万円

1200万円×1/3×1/4=100万円 → 長男が引き出せる上限額:100万円

B銀行2100万円

2100万円×1/3×1/4=175万円 → 長男が引き出せる上限額:150万円

②家庭裁判所の判断を得て払戻しを受ける

この場合は払戻し額に上限はなく、家庭裁判所が必要と認めた額の引き出しができます。ただ、家庭裁判所での手続きは手間や費用、時間もかかるうえ、その額が必要と認められる理由が必要です。相続後すぐの費用や、十分な額を確保したい場合には向かないといえます。

 

「預貯金の仮払い制度」は当面の生活費や急ぎの支払資金を確保するために新設された制度ですが、十分な額を確保するのは難しいのが実態です。新制度はできましたが、ご家族がご相続後も安心して過ごせるように、遺言書で準備をしておくことが大切ですね。

成年年齢の引き下げ ~相続はここが変わる~

2022.6.16

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。成年年齢の引き下げにより、相続に関しても変わる点がいくつかありますので確認をしておきましょう。

 

■遺産分割協議に参加できる年齢も、18歳に引き下げ

未成年者は遺産分割協議に参加できません。そのため相続人の中に未成年者がいる場合、相続関係によっては家庭裁判所に特別代理人を選んでもらい、未成年者に代わり遺産分割協議に参加してもらう必要があります。

これまでは遺産分割協議に参加できるのは20歳以上でしたが、2022年4月1日以降は、その時点で18歳以上であれば遺産分割協議に参加することができるようになりました。4月以降に遺産分割協議を行うのであれば、特別代理人選任の手続きが不要となるケースも考えられるでしょう。

 

■相続税の「未成年者控除」

相続人が未成年者であるとき、相続発生時から満20歳になるまでの年数1年あたり10万円が相続税額から控除される、「未成年者控除」という制度があります。2022年4月1日以降に開始した相続については、この年齢が20歳から18歳に引き下げられます。改正により、控除できる額が2年分の20万円少なくなるといえます。

 

■贈与税についても各制度で適用年齢が広がります

「相続時精算課税制度」では、現状は60歳以上の祖父母から20歳以上の子や孫への贈与という条件がありますが、2022年4月1日以降の贈与は、18歳以上の子や孫への贈与となり、2年早く適用を受けられます。

「相続時精算課税制度」の内容も確認しておきましょう。この制度を使うと2500万円までの贈与には贈与税がかかりません。ただ、この制度を利用して贈与した財産は、贈与した人の相続時に相続財産に加算されます。また、子はいるけれど孫にも贈与をする場合(代襲相続人ではない孫への贈与の場合)などは相続税が2割加算となる点、毎年110万円までは非課税になる暦年贈与が使えなくなる点も注意をしたいところです。

挙式や新居、出産や不妊治療といった結婚・子育て資金の一括贈与が1000万円まで非課税となる「結婚・子育て資金の一括贈与」制度、2022年度の税制改正大綱で贈与税の非課税措置が2023年末まで2年延長された「住宅取得等資金の贈与」制度も、20歳以上から18歳以上に引き下げられます。父母や祖父母から贈与を受けた財産(特例贈与財産)の対象年齢も同様に引き下げです。

どの制度についても、年齢の基準は贈与する年の1月1日時点ですので注意をしましょう。

 

対象となる年齢のご家族がいる場合には、相続の進め方を一度考える必要があるかもしれません。ご家族の背景や事情をふまえ、何が最適なのか専門家と相談しながら進めると良いでしょう。

相続争いのいちばんの原因

2022.6.9

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

みなさんは、相続で揉めてしまう一番の原因は何だと思いますか?「うちは家族仲が良いから揉めることなんてない」、「うちはそんなに財産はないから揉めようがない」と考えている方にとっては思いがけないことかもしれませんが、一番の原因は不動産があることです。もちろん自宅も不動産ですので、持ち家にお住まいの方は相続で揉めないための準備が必要といえます。なぜ不動産があることで揉めてしまうのか、理由を確認しておきましょう。

 

■自宅は相続人全員に平等に分けられる?

お金であれば、1円単位で相続人に分けることができます。自宅もお金と同じように、平等に分けることができるでしょうか。

相続人間で共有にする方法が思い浮かぶかもしれませんが、これはお勧めできません。共有にするということは、その不動産についての決定権が共有者全員にあるということです。例えば売却等をしたいときも、全員で意見を合わせて協力しながら進めなければなりません。共有している方に相続が起きた場合には、その相続人の方々との共有となります。将来、共有関係が複雑になっていくことで「全員で協力して」がより難しくなるおそれがでてきます。

それでは自宅をひとりへ相続させる場合、他の相続人とのバランスはとれるでしょうか。財産のうち自宅の占める割合が高いほど、自宅以外の財産でバランスをとるのは難しいものです。もし自宅以外にアパート等を所有しているとしても、それぞれ価値の違う不動産を平等に分けるのは難しいでしょう。

不動産は、安心して暮らしていくことや資産形成において大切なものですが、お金のように分けるのが難しいことから、相続の場では思いがけない争いの種になることがあります。

 

■揉めないための一番の対策は、遺言書を作成しておくこと

不動産があること以外にも、これまでの資金援助(学生時代の学費、マイホーム資金、孫の学費など)や、介護に尽くしたり、事業を手伝ってきた相続人の相続分などで揉めてしまうケースも多いです。相続人の間に、「〇〇ばかり援助してもらってきた」、「自分はこんなに動いてきたのに、〇〇は何もしてこなかった」という不満はないでしょうか。その背景には、ご家族それぞれの理由があるものです。ただこれまでの不平等との思いが、相続の場で一気に噴き出せば、争いとなってしまうでしょう。思い当たることがある場合には、対策を考える必要があります。

揉めないための一番の対策は、やはり遺言書を作成しておくことです。平等に分けることができない場合でも、「付言」で丁寧に理由や想いをのこしておくことで、争いになるリスクを減らすことができます。

遺言書があってもなお不満が残る場合には、相続の方向性を相続人に事前に伝えておくことも考えましょう。遺言書の作成とあわせて生命保険を活用することもできますが、加入できる年齢に制限もあるので早めの対応が必要です。相続後も変わらずご家族の絆をつなげように、相続も計画性をもって準備をすることが大切ですね。

 

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その16)

2022.6.2

今回は、<非上場会社の株価の「相続等の評価方法>について説明します。

 

【Ⅳ】「非上場株式」(取引相場のない株式)が相続や贈与等で移転する場合の評価方法は、国税庁の「財産評価基本通達」に定められています。

 

  1. 1 株式の評価額の計算方法は、「原則的評価方式」と「特例的評価方式」(配当還元方式)の2種類があり、更に「原則的評価方式」には、「類似業種比準方式」、「純資産価額方式」、「併用方式」の3種類があります。
  2. 2 <相続、遺贈又は贈与によって取得した「非上場株式」につき、その評価方法を決める手順>について説明します。

    1. (1) 最初に、<① 株主区分>で、取得者が「同族株主等」に該当するかを判定します。通常の事業承継者は、同族株主等に該当します。「同族株主」については次回に説明します。
      • (ア) 相続や贈与等で取得する株主が、会社の経営を支配する影響力を持つ<同族株主等の場合>の評価基準は、「原則的評価方式」となります。
      • (イ) <それ以外の株主の場合>は「特例的評価方式」(配当還元方式)となりますが、同族株主等の場合と同じ方式の方が低い価額になる場合はそれによります。
    2. (2) 次に、<② 評価会社の区分>において、株式発行会社が「一般の評価会社」か「特定の評価会社」かを判断し、「特定の評価会社」に該当する場合は、「純資産価額方式」となり、該当しなければ「一般の評価会社」として「原則的評価方式」で評価することになります。詳しくは,次に説明します。

    3. (3) 更に、「原則的評価方式」の適用の場合は、<③ 会社の規模>(大会社・中会社・小会社)を判定し、それによって「類似業種比準方式」、「純資産価額方式」、「併用方式」のいずれの適用となるかを判定します。詳細は後に説明します。
    4. (4) 以上の手順で各評価方式による価額と1株当たりの純資産価額の算定を行います。
  3. 3 上記<② 評価会社の区分>の「特定の評価会社」は、株式や土地などの特定の資産の保有割合が著しく高く、営業状態等が一般の会社と異なる会社を指し、会社の規模区分に係わらず、原則として「純資産価額方式」により株式を評価します。

    1. (1) 「株式等保有特定会社」は、株式等の価額の合計額(相続税評価額による)の割合が総資産の50%以上である評価会社を言います。

      • (ア) 相続対策としては、会社の総資産に対する株式等の比率を50%未満にして「株式保有特定会社」から外す(「株特外し」)ことに尽きます。
      • (イ) 「株特外し」の主な方法は、借入れを増加させ総資産内の株式の割合を引き下げるとか、株式以外の不動産等の資産の購入などがあります。
    2. (2) 「土地保有特定会社」は、課税時期における総資産価額に占める土地などの価額合計における「土地保有割合」が一定の割合以上の会社のことを言います。

      • (ア) 「土地保有特定会社」は、本来、大会社と中会社を対象とし、大会社の場合は、総資産価額に占める土地等の価額の割合(土地保有割合)が70%以上のとき、中会社の場合は90%以上のときに、「土地保有特定会社」と判定します。

      • (イ) 小会社の場合でも、「小会社の大」(総資産価額が大会社の基準となり、土地保有割合が70%以上)の会社を、「小会社の中」(総資産価額が中会社の基準となり、その割合が90%以上)の会社を、「土地保有特定会社」と判定します。なお、「小会社の小」の会社は、「土地保有特定会社」に該当しません。
      • (ウ) 対象となる土地は、会社が保有するすべての土地で、所有目的や所有期間は問わず、地上権や借地権、販売用の土地も含まれるので注意が必要です。

      • (エ) 土地を評価会社から外す(「土地特外し」)対策は、建物の建て替え、遊休地の貸し付け、また金融商品(投資有価証券、上場株式)等の資産の取得し、土地等の保有割合を低下させます。
    3. (3) なお、評価会社が、課税時期前に合理的な理由なくその資産構成を変動させ、「株式等保有特定会社」、「土地保有特定会社の株式」に該当する判定を免れるためと認められるときは、その変動はなかったものと判定される(財産評価基本通達189)ので注意を要します。
  1. 4 「原則的評価方式」は、上記の<③ 会社の規模>を、会社の従業員数と純資産、取引金額、及び業種(卸業・小売・サービス業、それ以外の3業種)を基準に「大会社、中会社(大・中・小)、小会社」の5つに区分し、評価方法を決めます(財産評価基本通達178等)。その判定方法は複雑なので、専門家に相談してください。

    1. (1) 大会社は、従業員数が70名以上か、70名未満でも総資産価額等の基準を満たす会社で、上場会社との均衡を図るためその株価を基にした「類似業種比準方式」により評価します。
    2. (2) 中会社は、大会社と小会社以外の会社で、従業員数・総資産・取引価格の3要素に基づき「国税庁の会社規模判定表」によって「大・中・小」に分類し、類似業種比準方式と純資産価額方式の「併用方式」により評価します。

      • (ア) 「併用方式」は、それぞれにつき上記2つの方式で評価額を算出し、会社の規模に応じた併用比率(「類似業種比準方式を使用する3種類割合」(Lの割合=0.9、0.75、0,60)(明細書通達))によってに分類され、株式の評価額を算出します。
      • (イ) 会社規模は「総資産価額及び従業員数」と「直前期末以前1年間の取引金額」の2つで判定します。
      • (ウ) なお、「類似業種比準方式」は、類似する同業種の上場企業の株価や各種数値と、評価会社の配当・利益・純資産を比較して算定しますが、評価会社の業種目については「小分類又は中分類」「中分類又は大分類」のいずれかを選択できるので、有利な方を選定します(財産評価基本通達181 類似業種)。
    3. (3) 小会社は、個人事業主が会社を直接支配する企業なので、個人事業主が保有する財産評価額との均衡を考慮し、原則として「純資産価額方式」により評価します。
    4. (4) 「純資産価額方式」は、自社保有の純資産の1株当たりの価額を評価額とする方法で、純資産は相続税に従い評価しており、貸借対照表上の帳簿価額とは異なります。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

不動産による相続税対策への影響は? ~路線価評価を認めず追徴課税は「適法」~

2022.5.19

こんにちは。相続コーディネーターの古丸です。

 

路線価に基づいて相続したマンションの評価をした結果、実勢価格を大きく下回る場合に、国税当局が路線価によらずに再評価し追徴課税をした処分の妥当性が問われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は4月19日、国税当局の処分を適法とし、相続人側の上告を棄却しました。

 

路線価は主要道路に面した1㎡当たりの土地の評価額で、国税庁はこの路線価を相続財産の算定基準のひとつとしています。路線価は土地取引の目安となる公示地価の8割程度とされていて、実際に取引される実勢価格より低くなるのが一般的です。この路線価と実勢価格との差に注目してみると、財産を不動産にすることで相続税の負担が軽くなる可能性が出てきます。

こうした相続税の節税方法は広く知られていて、相続税が多くかかることが見込まれる場合にタワーマンション等を購入する方も多くいます。

 

この路線価による評価を国税当局が「例外」と判断し、相続人に億単位の追徴課税をした件が訴訟に発展したことは、専門家の間でも大きく注目されました。

 

■相続人側、国税当局側それぞれの主張

今回の訴訟の原告である相続人は、相続したマンション2棟を路線価に基づき約3億3千万円と評価し、銀行からの借り入れもあったことから相続税額を0円として申告しました。これに対し国税当局は、この2棟のマンションの購入価格は合計13億8千万円であり、不動産鑑定でも評価額は合計約12億7千万円、「路線価による評価は適当ではない」と判断し、約3億円の追徴課税をしました。

 

原告である相続人側は、路線価以外で評価をすべきケースには該当せず平等な取り扱いに反しており、恣意的な課税は許されないと主張してきました。対して国税当局側は、路線価と実勢価格に著しい開きがあり、客観的な価値を示していることに疑いがあり、路線価による画一的な評価では税負担の公平性を著しく害するケースだとしてきました。

そして今回最高裁判所は、「税負担の軽減を意図して行ったもので、ほかの納税者との間で看過しがたい不均衡を生じさせる」として相続人側の訴えを退けました。

 

■相続税対策で注意することは?

この判決については、専門家の間でも、路線価による評価の例外とする基準が曖昧ではないかとの考えが多く出ています。

ただ、今回のケースに注目してみると、被相続人が高齢、被相続人自身のマンション購入意思の有無、相続直前のマンション購入、相続発生後すぐのマンション売却、といった点が路線価の適用を「例外」として、あきらかな節税対策だと判断された可能性が高いとの見方もあります。

 

今回の判決は不動産購入を伴う相続税対策そのものを否定したわけではありません。ただ、行き過ぎた対策には少なからずリスクがあることがはっきりしたといえます。ご家族の状況に応じた適切な相続税の対策を行うには、相続に精通した専門家と相談しながら進めると良いですね。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その15)

2022.5.6

今回は、前回の「特例措置」の「第一種特例贈与」に続いて、「第二種特例贈与」について説明します。

 

  1. 【Ⅲ】「第二種特例贈与」とは、先代経営者以外の株主、例えば、先代経営者の配偶者、兄弟などから後継者となる者へ株式(非上場株式)の贈与・相続が行われる場合で、前回(その14)で説明した「第一種特例贈与」に追随するものとして認められます(前々回(その13)【Ⅱ】1 (2)  (ウ) b) 参照)。

 

  1. 1 「第二種特例贈与」の納税猶予(特例措置)を受けるための要件(「第二種認定」)は、次の通りです。

    1. (1) その適用を受けるには、先に、後継者が先代経営者から自社株の贈与(「第一種特例贈与」)を受けている必要があります。
    2. (2) 「第一種特例贈与」の後5年間に、「第二種特例贈与」を行うことができます。後継者が複数(3人まで可能)の場合でも可能ですが、「同一年に行う」必要があります。
      •  (ア) 「第二種特例贈与」は、同一年中であれば同一の贈与者から複数の後継者へ異なる時期に贈与することができます。
      •  (イ) この場合「贈与者よりも多くの議決権数を有するように贈与する」という要件は、最後に行われた贈与直後に有する議決権の数によって判断します。
      •  (ウ) 「第二種特例贈与」を利用できれば、既に拡散していた株式を後継者に集中させることができます。

 

    1.  (3) 「第二種特例贈与」者は、上記の通り、先代経営者の配偶者、兄弟などからの贈与・相続ですが、後継者が先代経営者の親族でない、例えば、会社の役員や従業員の場合もあります。

      • (ア) この追随贈与の贈与者には、次の2つの適用要件があります。

        • ① 贈与時において代表権をもっていないこと。
        • ② 追随ですから,すでに「第一種特例贈与」の適用を受けた贈与者がいること。
      • (イ) この追随贈与は、「特例経営贈与承継期間」内に贈与に係る申告書の提出期限が到来するものが対象となります。

 

    1.  (4) 「特例経営承継期間」は、贈与を受けた年(12月31日まで)の申告期限の翌日(翌年3月16日)から5年後の申告期限(3月15日まで)となります。
      •  (ア) 例えば、令和3年中に贈与すれば、承継期間は令和4年3月16日の5年後の令和9年3月15日までとなるので、令和8年12月31日まで追随贈与が可能です。
      •  (イ) 「第二種特例贈与」は、「第一種特例贈与」と同年に実施すれば、同じ年に贈与税の申告手続が一度で済むので簡便です。
      •  (ウ) しかし、「第一種特例贈与」の翌年以降の贈与を受けると、「第二種特例贈与」につき都道府県知事の認定手続きが別に必要となり厄介です。

 

  1. 2 これまでの(その12)から(その15)において、「事業承継のための新しい税制」(特例措置)における自社株式の贈与・相続の納税猶予の免除についてその適用要件など詳細に述べてきており、馴染めないかも知れませんが次回以降も引き続き税法上の非上場会社の株価の「相続等の評価方法」(「同族株主」の評価)について説明することになります。

 

  1. 3 ここで、会社経営者の事業承継に関心を持たれ方には、(その1)から(その8)までを遡って読み直し、事業承継の基本的知識の整理をされるのが大事かと思います。そうでない方も事業承継の概略を知るためにも捲り直し目を通してみてください。(その9)から(その12)の信託は、特殊事例なので読み飛ばして結構です。よろしくお願いします。

 

 

 

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その14)

2022.4.1

今回は、「特例措置」を受ける適用要件(贈与税・相続税を「0」にするため)について説明します。

 

  1. 1非上場株式等の「先代経営者からの贈与」(「第一種特例贈与」)に係る贈与税の納税猶予を受けるための「特例適用要件」(「第一種認定」)は、以下の通り、形式的事項が多いのですが、詳細なので専門家に相談してください。

 

① 対象会社の要件

    1. (ア) 対象会社は,中小企業者(「円滑化法第2」)に該当する非上場株式会社又は持分会社であること(会社法上の会社)を要します。
    2.  a)株式会社、特例有限会社、合同会社、合同会社、合資会社、農業生産法人(会社の形態をとるもの)に限られるので、医療法人、税理士法人、NPO法人、風俗営業会社も適用対象にならない。
    3.  b)対象会社の要件には,認定を受ける会社本体だけでなく、その会社の「特定特別子会社」も含まれる。
    4.   ※ 「特定特別子会社」(対象会社・後継者・当該後継者の親族その他の同族関係者によって総株主議決権数の過半数を保有される会社(「特別子会社」)のうち,後継者の親族の範囲が「代表者と生計を一にする親族」に限定されるもの)
    1. (イ) 相続時において、「資産管理会社」(「資産保有型会社」、「資産運用型会社」)に該当しないこと(事業要件)を要します。
    1.  a)「資産管理会社」とは、資産に占める有価証券、不動産、現金等の「特定資産」の割合が70%以上の「資産保有型会社」や、収入に占める賃料など特定資産の運用収入の割合が75%以上の「資産運用型会社」などを指す。

    2.  b)但し、「資産管理会社」でも、常勤の従業員が5名以上で3年間以上事業を継続しているなど事業実態のある会社は除かれる

 

② 会社の要件

    1. (ア) 常時使用する従業員数が1人以上であること(従業者雇用要件)。

    2. (イ) その会社の贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度における総収入金額が、0円を超えていること(収入要件)。
    3. (ウ) 贈与時において、後継者(受贈者)以外の者が会社発行の拒否権付種類株式(いわゆる「黄金株」)を有していないこと。

 

③ 先代経営者(贈与者)の要件

    1. (ア) 先代経営者が贈与の時までのいずれかの時点で会社の代表者であったこと。
    2.  a)贈与の時までに会社の代表者を退任していること。
    3.  b)代表権の無い役員として残ることは可能である。
    1. (イ) 贈与開始直前において、先代経営者及びその同族関係者等で総議決権株数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いた者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと(筆頭株主要件)。
    2. (ウ) 既に事業承継税制の適用に係る贈与をしていないこと。

④ 後継者(受贈者)の要件

    1. (ア) 贈与の時(相続開始後5か月間)以後において代表者であること。
    2. (イ) 贈与の時に20歳以上であること

    3. (ウ) 贈与の時に役員就任から3年以上経過していること
    4. 特例適用期限の関係で、遅くても令和6年末までに役員就任の必要がある
    5. (エ) 贈与時に、後継者及びその同族関係者等の有する議決権数が、総議決権株数の50%超であること(支配株主グループ要件)。
    6.  a)贈与時において、後継者及びその同族関係者等(特別の関係がある者=先代経営者の親族など)の中で最も多くの議決権数を有すること(一つの会社で適用される者は1人)(筆頭株主要件)。
    7.  b)後継者が2人又は3人の場合には,総議決権の10%以上の議決権を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者除く)の中で最多議決権を保有すること。
    8. (オ) その他の条件
    9.  a)「特例承継計画」に記載された後継者であり、対象会社の株式等について「一般措置」の適用を受けていないこと。
    10.  b)なお、後継者は、先代経営者の親族である必要はなく、例えば会社の役員や従業員であっても構わない。

⑤ 一括贈与要件(先代経営者所有の株式を、後継者へ、全議決権の3分の2以上になるまで一括贈与すること)

    1. (ア) <後継者が1人の場合>
    2.  a)贈与する株式数は、発行済み株式総数の2/3から、後継者が贈与直前に有する株式数を差し引いた数量以上の株式数であること。
    3.  ※ 議決権の2/3以上を有すれば、会社の特別決議の議決権を保有する。
    4.  b)先代経営者と後継者の合計保有株数が発行済株式総数の2/3に満たないときは、先代経営者の持つ全株式数を贈与する。
    5.  c)先代経営者は、同じ後継者に対し、同一年に2回贈与することも、また次の年以降に贈与することもできない。
    6. (イ) <後継者が2人または3人の場合>
    7.  a)贈与後の後継者の保有株式数が発行済み株式総数の1/10以上となること
    8.  b)贈与後の先代経営者の保有株式数が後継者の株式数より少なくすること。
    9.  c)複数の株主から「第二種特例贈与」(次回説明します。)があれば、これも「一括贈与要件」の適用対象となる(前回「その13」【Ⅱ】1 (2)  (ウ) b) 参照)。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その13)

2022.3.10

18. 前回に引き続いて、「特例措置」の「都道府県知事の認定」の要件等につき説明します。

  やや複雑ではありますが、贈与税・相続税を「0」にする方法ですので、次回以降も含めてお付き合いください。

  「特例措置」に関心ある方は、専門家にご相談ください。

 

 【Ⅱ】 「新事業承継税制」(「特例措置」)には「法人版」と「個人版」とがあり、後継者は<法人版の場合は>非上場

     会社の株式等を、<個人版の場合は>事業用資産を、先代経営者等から贈与・相続により取得した場合に、「

     道府県知事の認定」を前提に、贈与税・相続税の納税の猶予又は免除されます。

 

 1 <法人版の「特例措置」の適用>に関する手続は、次の通りです。

  1.   (1) 「法人版事業承継税制」に「特例措置」と「一般措置」の2つの制度があります。
  2.   (2) 「特例措置」は、下記の通り、事前の計画策定等や適用期限が設けられ、適用期限を平成30年1月1日から10年間に

    限定し、納税猶予の対象株式数の制限(総株式数の3分の2まで)を撤廃して全株式とし、また納税猶予割合を

   (80%から100%に)引上げる等しました。

  •    (ア) < 「特例措置」の主な要件>は次の通りです。
  •     a)(事前の計画策定等)5年以内(平成3041日から令和5年3月31日まで)に「特例承継計画」を提出
  •     b)(適用期限)上記の10年以内(令和9年12月31日まで)の相続等・贈与等
  •     c)(対象株数)全株式 
  •     d)(納税猶予割合)100%
  •     e)(後継者)最大3人
  •     f)(雇用確保要件) 承継後5年間(平均8割の雇用維持要)につき例外がある(雇用確保要件を満たさない場合

     は、円滑化法施行規則第20条第3項に基づき、要件を満たさい理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出

     し、その確認を受ける必要がある。)

  •     g)(事業継続に困難な事由が生じた場合の免除)譲渡対価の額等に基づき再計算した猶予税額を納付し,従前の

     猶予税額との差額を免除。

  •     h)(相続時精算課税の適用)贈与者(60歳以上)から受贈者(20歳以上)へ
  •    (イ) まず令和5331日までに、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて「特例承継計画」を作成し、都道府

    県知事に提出して確認書の交付を受けます。その提出前に先代経営者が死亡した場合には、死亡後の「特例承継

    画」の提出も認められます。

  •    (ウ)  「特例承継計画」の提出後、① 令和91231日まで先代経営者が代表者を退き、② 後継者が代表者に就任

    し、③ 株式を後継者に一括で贈与します。

  •     a)適用期限は平成3011日から令和91231日までとされ、後継者が贈与・相続(遺贈を含む)により自社

     の株式等を取得することが必要です。

  •     b)贈与した年の1015日から翌年115日までに都道府県知事に認定申請をして、会社要件、後継者の要件、先

     代経営者等の要件を充足している「認定書」の交付を受けます。

     1) 先代経営者以外の株主(先代経営者の配偶者、兄弟など)から後継者への株式の贈与・相続の追随も認めら

       れます。

     2) 但し、それらの追随認定は、認定後5年間の有効期間内に申告期限が到来するものに限って受けることがで

       きます。

  •    (エ) 後継者は、翌年315日までに認定書の写し等を添付した贈与税の確定申告書を税務署へ提出し、納税が猶予され

    ます

  •    (オ) 猶予される贈与税額とその利子税額に見合う担保を国(税務署)に提供することを要します。
  •     a)担保提供を認める財産は、不動産、国債、地方債、税務署長が確実と認める有価証券、税務署長が確実と認め

     る保証人の保証等です。

  •     b)納税猶予の対象となる特例非上場株式(譲渡制限株も可)等の全部を担保提供した場合には、その「見合う担

     保」の提供があったものとみなされます

  1.   (3) 「特例経営承継期間」(5年間)は毎年、その経過後、猶予期間中は3年ごとに税務署に「継続届書」を提出し、また都

   道府県知事に一定の書類の提出を要します。

  1.   (4) その後、先代経営者が死去し相続が発生した場合に次の手続を必要とします。
  •    (ア) 死亡日から6か月を経過する日までに「免除届出書(死亡免除)」を相続税納税地の所轄税務署長に提出を要しま

    す。

  •    (イ) 相続開始の日から8か月以内都道府県知事に「贈与から相続」への切替の申請をします。
  •    (ウ) 相続開始日から10か月以内に相続税の納税猶予及び免除の特例を受ける旨の相続税申告書と一定の書類を税務署

    に提出します。この時も、猶予される相続額及び利子税額に見合う担保提供が必要となります。

  •    (エ) この時点で猶予されていた贈与税が免除され,相続税の猶予が始まります。
  1.   (5) 後記の通り、先代経営者は相続発生時点で役員であること、後継者は相続開始の直前に役員であり、相続開始から5

   か月後に代表者であることを必要とします。

 

 2 「個人版事業承継税制」は、平成31年度税制改正で、個人事業者の事業承継を促進するため、10年間限定で多様な事

  業用資産の承継に係る相続税・贈与税を100%納税猶予する制度として創設されました。

  1.   (1) 青色申告(正規の簿記の原則による)をする事業(不動産貸付事業等を除く)を行っている先代経営者から、

   後継者が円滑化法の認定を受け、個人の事業用資産を贈与又は相続等により取得した場合に、一定の要件のもとに

   贈与税・相続税の猶予と、後継者の死亡等によりその免除を受けることができます。

  1.   (2) 円滑化法の認定等を受けるには、平成3141日から令和6331日までに都道府県知事に「個人事業承継計画

   を提出し、確認を必要とします。

  1.   (3) 平成31年1月1日から令和10年12月31日までの10年間に、贈与・相続(遺贈を含む)により事業用資産を取得するこ

   とが必要です。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

会社経営者の事業承継について考えてみましょう(その12)

2022.1.4

17. 今回から、先代経営者から後継者に自社株式(議決権に制限のない非上場株式)を移転する場合に適用される贈与・

  相続の納税猶予・免除に関する事業承継のための新しい税制「特例措置」)を取り上げます。

 

 【Ⅰ】「中小企業経営承継円滑化法」(「円滑化法」)の都道府県知事の認定について

 

 1 非上場株式の移転に納税猶予・免除の「特例措置」の適用を受ける場合,その前提として,「円滑化法」の都道府県

  知事の認定等、一定の要件を満たす必要があります

  1.   (1) 平成30(2018)年度改正による「新しい事業承継税制」(「特例措置」)の適用を受けるためには、平成30年

  (2018年)4月1日から令和5年(2023年)3月31日までに、「特例承継計画」を都道府県知事に提出して認定を受け

   る必要があります。この提出がないと「一般措置」の適用になります。

  •    (ア) 従来の事業承継税制に対し、「新しい事業承継税制」は「特例措置」を創設し、令和9年12月31日までの10年間

    に限り、贈与税・相続税が100%猶予・免除され、また「雇用保持の要件」が緩和され、事業者にとって利用し易

    くなりました。

  •    (イ) 従前の「一般措置」(贈与:100% 相続:80%の納付猶予)は、承継後5年間事業を継続できなければ承継時の株

    価で贈与・相続税を納税する必要があったので、経営者は従前の事業承継税制に不安を感じていました。

  •    (ウ) しかし、「特例措置」では、経営状況の悪化や正当な理由があれば、相続(贈与)の税額等を再計算し、再計算

    した税額と直前配当等の金額との合計額が、当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除されることと

    なりました。

  1.   (2) 「特例措置」を受けるための手続は、①「特例承継計画」の作成・提出・確認、② 株式の贈与・相続、③ 認定申

   請、④税務申告です。

  •    (ア)「特例承継計画」は、「認定経営革新等支援機関」の支援を受けて「特例承継計画」を策定・提出し、都道府県知

    事の確認を受ける必要があります。

  •    (イ) その記載事項は、① 会社(特例認定を受ける事業者の名称等、資本金額等、常時使用する従業員数)、② 特例代

    表者(保有株式の承継予定の代表者の氏名、代表権の有無)、③ 特例後継者(②から株式承継予定の後継者氏名

   (最大3名まで))、④ 株式等を取得するまでの経営の計画(株式承継の予定時期、経営上の課題、当該課題への対

    処方針など)、⑥ 特例後継者の株式等承継後5年間の経営計画、⑦ 認定経営革新等支援機関の名称(国から認定さ

    れた認会計士・税理士・弁護士の専門家や金融機関・商工会議所等)及び所見等です。

  •    (ウ) 変更があった時には「特例承継計画の変更確認申請書」を提出して、確認を受けることができます。
  1.   (3) この適用には一定の条件というやや難しいハードルがあるので、適用を希望しない経営者もおられるかも知れませ

   んが、新税制の概略を知っておくことは事業承継を考える上で大いに役に立つ筈です。

 

 2 非上場株式(議決権に制限のない自社株式)の納税猶予・免除の「特例措置」の適用ついて、「贈与税猶予・免除」

  と「相続税猶予・免除」の仕組みを見ておきます。

  1.   (1) 「事業承継税制」の仕組みは、一定の要件を満たす間は、株式等の移転にかかる贈与税・相続税を猶予し、二代続

   けて承継すると納税が免除されるものです。

  •    (ア) 後継者が先代経営者から贈与された時、株式等の贈与税の納税猶予を受けます
  •    (イ) <その後、先代経営者が死亡すると>、猶予されていた受贈株式等の贈与税の納付が免除されこの時点で受贈

    株式等の相続税の納付が猶予されるのです

  •     a)その相続時に、受贈株式等は相続財産とみなされます
  •     b)みなし相続財産は、他の相続財産に加算されて相続税額が算出され、そのうちのみなし相続財産分の税額が猶

     されます。

  1.   (2) 次に、<相続税の納税猶予を受けた後継者(二代目)が三代目後継者に一括贈与を行った場合>は、三代目は贈与

   税の猶予を受けられ、この時点で、二代目は上記の猶予された相続税が免除されることになります。

   但し、この仕組みに従わず、贈与税の納税猶予中の二代目が、先代経営者の存命中に、三代目に一括贈与すること

   はできません

  1.   (3) 「一定の要件」とは、概略、① 同族会社において、後継者が先代経営者から事業承継による自社株の一括贈与や相

   続で取得し、② その後5年間経営を継続(同族会社の維持)し、③ 更に5年経過後も株式を保有し続けるなどと言

   うものです。

  •    (ア) 上記要件を満たせば贈与税や相続税の納税猶予を受け、贈与者・後継者の死亡に伴いその者については最終的に

    納税が免除されるのです。

  •    (イ) ただ、それが終着点ではなく、このように贈与税の猶予・免除、相続税の猶予・免除が繰り返されて行くので

    す。

  •    (ウ) 事業承継の途中で株式の売却など、上記②・③の要件を満たさなくなり、同族支配がなくなると、納税猶予が打

    ち切られ利子税を合わせて納税しなければならないので注意を要します。

  •    (エ) 事業承継税制において、後継者が非上場株式等を継続保有し、代表権を有していなければならない期間を「特例

    経営承継期間」と言います。

  1.   (4) 以上の通り、「贈与税猶予」と「相続税猶予」は、一旦適用すると後戻りできないので、目先の課税上のメリット

   だけでなく、同族会社の後継者の人材確保やこの先の経営方針を熟慮し、制度活用による経済的得失等を慎重に検

   討するのが大事です。

  •    (ア) 自社株の評価額が低く相続税額が高額にならず、会社の納税資金に問題がなく将来の会社経営に対する自由な判

    断を確保したいときは、適用を控えるべきです。

  •    (イ) また、将来、会社を譲渡する可能性がある場合、また相続した自社株を「発行会社への譲渡」(金庫株)する場

    合は、上記猶予制度を利用すべきではありません

  1.   (5) この適用に当たっては、専門家によくよく相談し、検討することが大事です。

   

次回は「新事業承継税制」の適用を受ける手続について説明します。

筆者紹介

特別顧問

弁護士 青木 幹治(青木幹治法律事務所) 元浦和公証センター公証人

経 歴
宮城県白石市の蔵王連峰の麓にて出生、現在は埼玉県蓮田に在住。 東京地検を中心に、北は北海道の釧路地検から、南は沖縄の那覇地検に勤務。 浦和地検、東京地検特捜部検事、内閣情報調査室調査官などを経て、福井地検検事正、そして最高検察庁検事を最後に退官。検察官時代は、脱税事件を中心に捜査畑一筋。 平成18年より、浦和公証センター公証人に任命。埼玉公証人会、関東公証人会の各会長を歴任。 相談者の想いを汲みとり、言葉には表れない想いや願いを公正証書に結実。 平成28年に公証人を退任し、青木幹治法律事務所を開設。 (一社)埼玉県相続サポートセンターの特別顧問にも就任。 座右の銘は「為せば成る」。

セミナーのご案内

相続用語集

まどかバックナンバー

該当記事がありません。

当社アクセスマップ

このページの先頭に戻る